えーん えーん

 
「ぬーんち泣いちょるぬ?」
(なんで泣いてるんだ?)

「やーぬちらがまぶやぁんだしよ」
(お前の顔が怖いんだよ)

「そうあびる甲斐やしがみー付きやなからまぶやぁよ!!」
(そう言う甲斐だって目付き悪いから怖いよ!!)


えーん えーん


「くり食う?」
(コレ食う?)

「慧くん、近寄っのみぐさぁーらもっと泣くよ」
(慧くん、近寄ったらもっと泣くよ)

「高い高いしてやるさー」

「「知念やあま向いてて」」
(知念はあっち向いてろ)









やいやいと騒がしいのは、比嘉中のテニス部…の部室内。


顧問の早乙女の悪口を言いながら甲斐が部室に入ったのが15分前。

そして、同時に部室の椅子に座っていた小さな女の子を見つけた。

驚いた甲斐が「誰?」と声をかけると、びくりと猫のように体を震わせて…なんと泣き出してしまったのだ。

その後次々と部室にやってきた部員が何と言ってなだめても、少女は泣き止まない。近寄ってもわぁわぁと泣いて逃げてしまうので、部員達が困ること約10分。



「何の騒ぎですか」

「あ、永四郎」

「イナグーがいるんやっさー」
(女の子がいるんだよ)



キラリ、そんな効果音が似合う切れ長の瞳を湛えた比嘉中テニス部部長。木手永四郎が遅れてやってきた。
  
 
「近寄っのみぐさぁーらひんぎるし、泣いちょるから迷子かも分からねーらんよ」
(近寄ったら逃げるし、泣いてるから迷子かも分からないんだよ)


そんな平古場の言葉を無視して、木手はまだ泣いている少女に近寄る。

部員達が全員「ああ、逃げられるぞ」と思っていたのだが…



「永四郎お兄ちゃんー!!」



涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、少女は木手に思い切り抱き着いた。
木手は嫌な顔ひとつせずに少女を抱き上げ、涙を拭ってやっている。


「名前、遅くなってすみませんでした」


少女を名前と呼ぶ優しい声色は、普段「ゴーヤ食わすよ」と部員に凄むそれとは丸で違う。
どれくらい違うかと言うと、部員全員が口を半開きにして唖然とする程違う。床にポテチの袋が落ちる音がした。
  
どうやら少女は名前という名前で、木手の親戚の子らしい。

家で預かっていたのだが、両親が外出してしまったので面倒を見る為に連れて来たそうだ。


「木手の子かと思ったさー!」

「甲斐くん、ゴーヤ食わすよ」


名前は木手に抱かれて安心したようで、部員達が近寄っても怯えなくなった。今は木手の足元で知念を不思議そうに見上げている。


「名前は何歳なんさー?」

「…4さい」

「あい、やっと答えたさー」

「…お兄ちゃん、おおきいね」


先程の怯えは何処へやら。
田仁志からポテチを貰い、平古場に「軽いなー」と抱き上げられ、やたらと構われている。
名前は比嘉中テニス部員に気に入られたらしい。


「…さあ全員集まって下さい。
練習を始めますよ。」

「名前はどうするさー」

「ここで待っていて貰います」

「えー!!可哀相やさー!!」

「やさやさ!!」
(そうだそうだ!!)

「永四郎の鬼!!」
 
「チョココロネ!!」

「うんぐとーるんやくとぅ手塚んかい負けるんやっさー!!」
(そんなんだから手塚に負けるんだ!)

 
「全員ゴーヤ食わすよ」
 
 
 
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