- ナノ -


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 今はもう、誰も住んでいない海辺の家の一室に、古ぼけた木の箱があった。中が細かく仕切られたその箱にはたくさんの貝殻が入っており、そのひとつひとつに拾った日付が記された紙が添えられている。
 傍には、少女と竜が一緒に貝殻を拾う小さな肖像画。顧みる者もなく、思い出は、外からの鈍い光に照らされて浮かび上がり、色褪せてゆく。


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