- ナノ -


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 人々の楽しげな歌を聞き、踊る姿を見るのが好きだった。心が解れると、龍の宿す水の力が呼応して、辺り一帯が優しい雨に包まれた。人々はそれを嬉しがって、また歌を歌い、踊った。
 すっかりそんなことも少なくなってしまったが、今でもたまに、聞こえてくるのだ。あの日聞いた、朗らかな歌。そんな時、龍は思わず笑みを溢しながら、何故か泣いてしまう。雨は昔より、少しだけ強まって降った。


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