- ナノ -




 スリーアウト、の力強い声に続いて歓声が巻き起こる。夏の甲子園。今年もその頂点が決まったのだ。テレビに大写しになった優勝校の投手を見て、俺は言った。こいつ、小中と学校同じだったんだよ。一緒にテレビを見ていた友達はがばと身を起して叫ぶ。まじか。めっちゃすげーじゃん。
 俺は当時のことを思い出しながら言う。半端なく投げやりなやつでさ。どうせ投げるんなら前向きに投げやがれって、俺思わず怒鳴っちゃって。そしたらあいつ、前向きにか、ってにやりと笑ってな。それからの伸びが凄まじかった。特に投球。気がついたらあいつは、誰もが認めるピッチャーになっちまった。裏で相当投げてたらしい。前向きにな。
 そんなことってあるのかよ、と、友達は目を丸くしていた。俺も正直、信じられない。ただ、
 俺、投げ出すことくらいしか得意なことないからさ。
 そう言って笑ったあいつの横顔が、真夏の青空と共にいまも瞼の裏に焼き付いて離れない。



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