- ナノ -


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 絵筆を構えたまま、彼は海をじっと見つめていた。いつも見ているものなのにどうして描けないんだろうって思ってたけど、と彼は言った。たぶん、描けるほどには真剣に見ていなかったんだ。
 竜はそんな彼を隣で見ていた。もし竜にも使える絵筆があったなら、いまの彼の姿をとらえ、表現することができただろうかと考えながら。


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