- ナノ -


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 人も、同じ竜でさえも寄り付かないような険しい山脈に、その蒼竜はいた。別れるのが悲しい。それにつらいんだ。もし誰にも会わなければ、こんな痛みは感じなくてすむじゃないか。竜が訪ねていくと、彼はひとしきりそう言って立ち去ろうとした。竜はあるペンダントを差し出す。中に人間の女性の肖像が収められていた。それでも、大切に思う誰かがいるから生きようと思えるのだろう? はっとする蒼竜に静かにそう告げると、竜はペンダントを置いて静かに飛び立った。


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