- ナノ -


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 物心がついた頃から竜と共に街で暮らしていた少女にとって、竜はいつでも友達だった。街の外の竜には迂闊に近づかないこと、と大人は言う。その意味が少女にはよくわからなかった。
 少女はある日、仲の良い竜の背に乗って街を出て、森へ遊びに出かけた。森には花が咲き乱れていた。一緒に来た竜は近くの泉へ水を飲みに行き、少女が夢中で花を摘んでいると、木々の向こうから花のように美しい桃色の鱗を持った竜が現れた。少女は顔を輝かせ、その竜に駆け寄った。
 泉から戻った竜が再び少女の姿を見ることはなかった。竜は森のいたる所を探し回り、後日街からは捜索隊が出たが、ついぞ彼女は見つからなかった。


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