- ナノ -


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 紫陽花って雨が降る季節だけのものだと思ってたけど、と彼女は言った。秋の、色が少し褪せた感じのものもきれいだなって最近気がついたの。
 竜は彼女の持っている一朶の紫陽花に顔を近づけた。どこか懐かしいような、記憶を辿るような、そんな色合いをしている。わたしの鱗には、この紫陽花の色の方がよく馴染むようだ。そう呟いた竜に彼女は、すてきね、と微笑んだ。


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