「怖いのは火だな」 藤田さんが言った。 彼は40代の会社社長だそうで、このショッピングモールでこうなってしまってからは率先して皆をまとめようと動いてくれるのでとても助かっている。 「今火事が起こっても消防隊がまともに出動出来るとは思えない」 「同感です」 徹さんが相づちを打つ。 「幸い、このショッピングモールは郊外にあるから、他の建物からの類焼の心配はないだろう」 「問題は建物の中か……下のフードコートと上のレストラン街が心配ですね」 「ああ、突然だったから火の元を確認するような余裕はなかっただろうからな」 つまりこの建物は上下に不安材料を抱えているということだ。 「そこで、だ。有志を募って確認しに行きたいと思う。もちろんこれは食料調達も兼ねている」 「ベストなのは制圧ですね。上下各階を押さえて出入口も閉めてしまえば、このショッピングモール自体がセーフティゾーンになるわけだから、今まで以上に安全に籠城出来る」 「でも、他の階にはアレがうじゃうじゃいるんじゃ…」 「そうだよ!俺は絶対行かねえぞ!」 山崎さんが叫ぶと、辺りにいた人達にざわめきが広がった。 皆不安そうな顔をしている。 「確かにそうだ。戦闘は避けられない」 藤田さんが重々しく言った。 戦闘、という言葉に、やはりアレとの戦いは避けられないのだと実感する。 「何回かに分けて少しずつ数を減らしていくしかないな」 「本気で言ってんのか!?」 山崎さんが信じられないといった風に言った。 「あのっ」 これは今しかない、と思い、私は思い切って口を開いた。 「アレの弱点は頭だそうです。ネットで調べました」 「あれ?やっぱりそうなんだ?ホラーもののお約束だねぇ」 徹さんが言うと、またざわめきが広がった。 実際にアレと対峙した人達の情報だが、首を切り落とすか、刃物で頭を貫通させれば動かなくなるらしい。 そう説明すると、徹さんは驚いた事に微笑んでみせた。 初めて見る好戦的なその笑みにドキッとなる。 「なるほど。倒せない敵じゃないってわけだ」 「その通り。武器さえあれば俺達でも何とかなる」 「消火用の斧と、スタッフルームにあったバールはどうですか?」 「なまえちゃんナイス。それは十分武器になりそうだね」 「他に何かないですか?」 「頭をカチ割るならマネキンのスタンドが使えるかも」 「当たればそうだな。持ち歩くのが大変そうだが」 「掃除用のロッカーに長箒が何本か入ってますけど…」 「よし、それも使わせて貰おう」 藤田さんが手を叩く。 「じゃあ、女性と子供はここで待機して貰って、男性の中から有志を募るということで」 「勝手に決めるなよ!俺は行かないからな!」 山崎さんが叫んだ。 藤田さんはわかっているというように頷いた。 「最初からあてにしとらんよ。じゃあ、一緒に行ってくれる人は手を挙げてくれないか」 人々の中からまばらに手が上がった。 若い人が二人、中年ぐらいの人が三人。 初老の男性も勢いよく手を挙げたのだが、奥さんに宥められて渋々引き下がっていた。 その気持ちだけでも嬉しい。 少し迷ったが、私は藤田さんに向かって手を挙げた。 「私も連れて行って下さい」 |