いざ上まで来て斜面を見下ろすと、高さに身が竦む思いがした。
これで怖がっているのだから上級者コースなんて無理不可能だ。

「ほら、行くぞ」

「はい」

尾形さんの広い背中を見ながら、後ろから彼についてゆっくり滑り出した。

尾形さんの滑った跡をなぞるように斜面を滑り降りていく。

スキーレッスンで役立つ練習方法のひとつで、「トレーン」と呼ばれるやり方だ。

確かにさっき一人で滑っていた時よりも楽な気がする。

半分ほど滑ったあたりで、景色を楽しむ余裕すら出てきた。

一人で滑っていた時はとにかく、姿勢を保つこととコースアウトしないことに集中していたため、スキーを楽しむ余裕なんて無かったからなあ。

「どうだ、楽しかったかだろ」

「はい!」

麓まで降りて来て止まった尾形さんに尋ねられた私は、大きく頷いて笑った。
やっとスキーの楽しさがわかった気がする。

「よし、じゃあ帰るか」

尾形さんと一緒に駐車場に向かう途中、ちらちらと雪が舞い降り始めた。

「急がねえと吹雪くかもな」

運転席に座った尾形さんが呟く。

実際、宿泊先に向かって車を走らせていると、雪の降り方はどんどん酷くなっていき、目的地に着いた時には殆ど吹雪の様相を呈していた。


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