不二くんと私は大学の同級生だ。
それなりに仲が良い友人関係にあると思う。

あくまでも“友達”
私は初めて会ったときからずっと不二くんの事が好きだけど、普通に考えて彼が私に好意を持ってくれるとは思えない。
何しろ彼はモテるのだ。

その不二くんを叔父が経営するペンションに誘ってみたところ、拍子抜けするくらいあっさりとOKを貰ってしまった。

と言っても、これは私に対する好意からというよりも、ゲレンデの近くのペンションに格安で宿泊出来て、リフト半額チケット付きでスキーが滑り放題というプランが魅力だったからに違いない。
家族で毎年スキー旅行に行くぐらいだから本当にスキーが好きなんだろう。

私が誘った時も凄く嬉しそうだったし、いざゲレンデに着いてスキーをしている間もとても楽しんでくれているようだった。
不二くんに喜んで貰えて私も凄く嬉しい。


当たり前だけど、誰彼構わずペンションの話をして回っているわけじゃない。
むしろ友人達にも戒厳令を敷いて秘密にしていたくらいだ。
それなのに、どうも私の女友達からその彼氏経由で大学の何人かの男の子に話が伝わってしまったらしく、いつの間にかスキー好きの人達の間に噂が広まり、見ず知らずの男の子から声をかけられるようになってしまったのだった。

「苗字さんの叔父さん、スキー場の近くでペンションやってるんだって?今度みんなでスキー行こうよー」

といった具合に。
確かにスキー好きには魅力的な話だとは思う。
でももう少し取り繕って欲しいと思うのは我が侭だろうか。

だから、自分から誰かを誘って連れて来たのはこれが初めてだった。

友人達は、「いよいよ最終兵器を出したか」「勝負に出たな」などと言って冷やかし混じりの応援をしてくれたけれど、私としてはただ不二くんにスキーを楽しんで貰って、彼と一緒に大学最後の想い出作りが出来たらいいなと思ってのことだった。
それはまあ、出来ればこの旅行の間に進展出来たらこれ以上嬉しい事はないけど、でもそれは甘い夢に過ぎないとちゃんと解っている。



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