「慶次はまだか」 秀吉が辺りを見回して言った。 「君達と一緒じゃなかったのかい?」 「いや、」 「おーい、秀吉!ねね!」 丁度そのとき、話題の人物が手を振りながら駆け寄ってきた。 スノーボードを超刀のように肩に担いだ慶次が走ってくる。 ポニーテールにした髪が頭の後ろで大型犬の尻尾みたいに揺れていた。 「半兵衛もなまえちゃんも戻ってたのか。俺が最後かぁ」 「遅かったね、慶次君」 「いやあ、それが、可愛い女の子達に声かけられてさ、さっきまでスノボ教えてあげてたんだ」 「ああ、そんな事じゃないかと思ったよ」 呆れ顔で溜め息をついた半兵衛に、慶次は「だって女の子の頼みは断れないだろ」と快活に笑った。 「仕方のない奴だ」 秀吉も苦笑する。 慶次は頭をかいて屈託のない顔で笑っているが、なまえにはちょっと慶次の気持ちが分かる気がした。 なまえは半兵衛につきっきりで教えて貰っていた。 そうなると、慶次は秀吉とねねと一緒に行動することになるわけだが、ずっとカップルと一緒に三人だけで行動というのは結構辛いものがあるはずだ。 例えそれが友達だとしても。 勿論、秀吉もねねも人目を憚らずにイチャつくバカップルではない。 でも、ねねは慶次の初恋の相手でもあるわけだから、明るく振る舞っていても間近で彼らを見続けるのはやはり心中複雑なのではないかと思うのだ。 「あー、腹減った!メシ行こうぜメシ!」 切ない心痛など欠片も感じさせない朗らかな笑顔で慶次が言った。 この屈託のない笑顔に女の子達はコロリといくんだろう。 「そうだね、時間的にも夕食を済ませてしまったほうがいいかもしれない」 「うむ。では行くか」 先頭を切って歩いて行く慶次に続いて、秀吉、ねね、半兵衛がぞろぞろと移動を開始する。 なまえは少し戸惑いながら慶次の広い背中を見ていたが、半兵衛に柔らかい声で名前を呼ばれ、慌てて彼の傍に小走りで駆け寄った。 「どうかしたのかい?」 半兵衛が顔を寄せて心配そうに囁きかけてくる。 「いえ、何でもないです。ちょっとぼうっとしちゃってたみたいで」 「…そうか」 頷いた半兵衛はまだ少し心配そうだった。 自分は我が身も省みずに平気で無茶をするくせに、なまえには甘いのだ。 「具合が悪くなったらすぐに言うんだよ」 「はい。でも平気ですよ、こう見えて体力には自信がありますから。ご飯食べたらすぐに復活します」 「頼もしいね」 ふっと微笑んだ半兵衛が甘い声で囁く。 「その様子なら、今夜もう少し運動させても問題なさそうだ。安心したよ」 「…運動?」 「おーい、半兵衛、なまえちゃん! 何やってんだよ。置いてくぞー!」 もう大分先に行っていた慶次が二人を呼んだ。 「行こう。慶次君はともかく秀吉を待たせるわけにはいかないからね」 半兵衛がなまえの手をひいて歩き始める。 「……運動……?」 |