「バアアアアア!!」

突然、何の前触れもなく、スクリーンを突き破ってピエロ姿の男が舞台に飛び出してきた。

先ほどまでスクリーンに映っていた人喰いピエロと全く同じ姿形をしている。

ピエロは舞台から飛び降りると、一番前の客席に座っていた女性客に襲いかかった。
両肩を掴み、くわっと大口を開いて首筋に噛みつく。
悲鳴が上がり、血飛沫が飛び散った。
感電したかのように女の身体が激しく痙攣する。
女の首筋に食らいついたピエロは、ぐちゃぐちゃと音を立てながらその肉を咀嚼していたが、顔を上げてニィッと笑んでみせた。
ギザギザの歯が並んだその口元は真っ赤に染まっている。

「なに、あれ…」

「け、警察!」

「駄目、圏外になってる。なんで?」

「嘘でしょ?ドッキリじゃないの?」

ホールの中にざわめきが広がっていく。
慌てて席から立ち上がったのはほんの十人ほどだった。
殆どの観客達は今目の前で起こっている出来事が何かのテレビ番組のドッキリ企画ではないかと疑っているのだろう。

次の瞬間、廊下へ続く扉が一斉に開いた。
人々の視線がそこに集まる。
各出入口には、それぞれ違う衣装を着たピエロが立ちはだかるように立っていた。
ピエロ達が一斉に駆け出し、一番近くにいた観客に襲いかかる。
彼らが観客の腕や顔に噛みつくのを見て、いくつもの悲鳴が上がった。

「逃げろ!!」

その声を機に、観客達は一斉に動き出した。
やっとこれはドッキリなどではないと悟った観客達が出口に向かって駆け出す。
悲鳴を上げ、逃げ惑う人々。

なまえも人の波に揉まれながら会場の外に出た。


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