英国魔法界の片隅の、ある森の近くに、赤ずきんと呼ばれているなまえという名の少女が住んでいました。
いつも母親に作って貰った赤い頭巾を被っていたので、そう呼ばれていたのです。
ところで、そのなまえは少々天然な少女でした。
ですが、さすがに、今祖母がいるはずのベッドに入っているのは、自分の祖母ではなく、さっき森で会った男の人だということはわかりました。
でも、もしもそのことを指摘したら、怖い目に遭うのではないだろうか……そう思ったからこそ、疑問を口にせず、あえて騙されているふりを続けたのです。

「喉が渇いただろう。テーブルの上に紅茶があるから、それを飲みたまえ」

ベッドの中から響く、バリトンの猫撫で声。
頭までシーツを被っているせいで、その声はくぐもって聞こえました。
なるほど。
テーブルを見ると、男の言う通り、紅茶らしき液体の入ったカップが置かれています。
でも、何となく──本当に何となく、紅茶以外の何かが入っているような気がして仕方ありません。

なまえがテーブルに近付き、そのカップを取り上げた時、ふとテーブルの下に一匹の黒猫がいるのが見えました。紅いルビーのような目が、暗がりからこちらを鋭く見上げています。
不思議なことに、赤ずきんはこの黒猫が自分の味方なのだということがわかりました。

「飲まずに捨てろ」

テーブルの下から黒猫が囁きます。
どうやら、ベッドにいる男にはその声は聞こえていないようです。

「飲んだふりをして、そこの植木鉢に捨てるがいい」

そうして、テーブルの下からするりと抜け出した黒猫が男の注意を引き付けてくれたので、赤ずきんはその隙に無事にカップの中身を植木鉢に捨てることが出来ました。
ベッドの中の男は酷く動揺した様子で黒猫を見ていましたが、直ぐにはっとしたようにこちらを見遣りました。
なまえがいかにも全て飲み干したような仕草をして改めてベッドのほうを見ると、浅黒い腕がシーツから突き出て手招きます。

「着ている服を全て脱いで、こちらにおいで」

「はい、おばあさん」

言われるままに赤い頭巾をとり、ローブを脱いでベッドを見ると、「下着もだ」と声が聞こえてきたので、仕方なく下着も脱いで、とうとう裸になってしまいました。
ぶるっと震えると、シーツの中で男も身震いしたようです。
シーツが捲られたので、なまえは裸のままそこに滑り込みました。
肌に触れたシーツはほのかに温かく、そのシーツよりももっと温かい腕に抱き寄せられ、男の体にぴたりと密着させられます。



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