重い身体に四苦八苦しながらも、何とか近くの岸辺に男を助け上げる。
幸いにも呼吸はしているようだ。
鼓動も力強い。
男の胸に耳をあてて心音を確かめたなまえはほっとした。
端正な顔にぺたりと張り付いた黒髪を梳いて払ってやり、頬をぺちぺちと叩く。

「大丈夫?しっかりして…!」

と、そこへ、遠くから若い娘が走ってくるのが見えた。
慌てて海に飛び込んで身を隠す。

「ザンザス様!!」

どうやら顔見知りらしい。
若い娘は男を揺さぶって何度も名を呼んでいる。
そうするうちに、男が小さく呻いて目を開いた。

「ザンザス様…ああ、良かった…!!」

「…てめえは…」

「ボンゴレの幹部の娘です。ザンザス様の船が嵐に遭ったと聞いて、いてもたってもいられなくて……!」

ザンザスはそう語る娘をじっと見据えていたが、やがて、

「お前が俺を助けたのか」

と低く尋ねた。
若い娘は微笑んで大きく頷く。

「は、はい。ご無事で何よりで──」

「お前が、海から引き上げたと?」

「そ、そうです。私が──」

次の瞬間、娘は悲鳴を上げて飛びのいた。
ザンザスの右手から放たれた炎に顔を焼かれたのだ。
凄まじい苦痛の叫び声をあげながら浜辺の上を転がり、のたうち回る。

「嘘をつくな」

氷のような冷たい声でザンザスが呟く。
その唇には嘲るような笑みが浮かんでいた。

「海から助けたというなら何故濡れていない? てめえの服は、まるで屋内に──そう、たとえば車の中にでもいて、たった今さっき急いで飛び出してきたばかりのように乾いているのはどうしてだ?」

娘はその問いに答えられなかった。
焼けただれた顔を両手で押さえ、まだ苦悶の叫びをあげ続けている。

「失せろ。そこにいるカスども、てめえらもだ」

その途端、近くの岩影に潜んでいた男達が現れ出て、火傷をして苦しむ娘を連れて逃げ出していった。



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