沢田夫妻によって大切に大切に育てられ、たった三月(みつき)の間で14歳ほどの姿にまですくすくと成長した娘は、なまえと名付けられた。

そして、心優しく、愛らしい少女となったなまえのもとへ、何処からかその噂を聞き付けた男達が、入れ替わり立ち替わり求愛に訪れるようになっていた。
それも何故か一筋縄ではいきそうもない癖のある凶悪そうな男ばかりが熱烈に求愛してくるのだ。
奈々は「あらあら、モテモテね」と純粋に喜んでいたが、家光は父親として頭を悩ませる毎日だった。

そんなある日、とうとう噂は宮中にまで届いたらしく、今は息子に帝位を譲って隠居中の先の帝までもが、お忍びで家光を訪ねてきた。
実は家光はただの竹職人ではなく、かつてこの先帝の腹心の部下だったのである。

「噂は聞いているよ。なまえさんは随分と素晴らしい良い子に育ったようだね」

「はい、お陰様で…」

家光は無難な返答をかえした。
先帝のティモッテオがここに来た目的は大体見当がついていたのだが。

「そこで相談なのだが……なまえさんにうちのザンザスの后になっては貰えないだろうか」

(──やはりそう来たか……)

家光の予感は当たっていた。
苦い顔でどうしたものかと唸る家光に、先帝が続ける。

「お前も知っての通り、あれは私と血の繋がりがないということを知って以来すっかりグレてしまってね……まあ、元から凶暴な子ではあったんだが、最近では命まで狙われる始末だ」

9代目はやれやれといった風に苦笑したが、今の帝が父である先帝の抹殺を目論んでいるのだから、実はとんでもない話である。
単なる親子喧嘩では済まない。

「聞くところによると、彼女は凶悪な人物として有名な男達を次々と籠絡しているそうじゃないか。何とも頼もしいお嬢さんだ。彼女ならばザンザスを宥めすかして巧くやってくれるのではないかと思ってね。むしろ調教してやってくれてもいい。どうだろう?」

「9代目……うちの娘は猛獣使いではありません」



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