1/2 


「なまえ、おいで」

両腕を広げて招くレンの元に素直に歩み寄ると、ぎゅっと抱きしめられた。
テツなどに比べれば幾分細身ではあるが、彼は男で、ひとつ年下の異性であるなまえとは身体つきからして全く違う。
こうしてすっぽり腕の中に収められてしまえば、彼が意外なほどしっかりした体格をしていることが分かった。

自分とは違う肉体。
自分とは違う匂い。
自分とは違う、男の人のからだ。

こんなことをされて恥ずかしくないわけがない。
でも、ようやく少しだけ慣れてきた。

「ん……いい匂いですね、なまえは」

なまえの身体をちょっと持ち上げるようにして浮かせ、首筋に頬をすり寄せているレンを拒む気も起こらない。

首筋に吐息がかかり、柔らかい唇が肌をかすめた時は、さすがにほんの少しぴくんっと反応してしまったが、彼を押しのけるようなことはしなかった。

「仲が良い兄妹はこうしてスキンシップをとるものなんですよ」などと笑顔で言い切られてしまえば、口答えも出来ない。

だからなまえは、頬にキスをされた時も大人しくしていたし、近づいてくる唇を目を閉じて受け止めた。
バードキス、というのだとレンが教えてくれたそれは、ちょっとくすぐったくて、何だか胸の奥がきゅんとなる感触のものだった。

「あの…お兄ちゃん、」

「口を開けて」

「ん……はい」

舌で舌を舐められる。
唇をぴったりと深く重ね合わせてするそれは、今日が始めてだった。
何度も繰り返される内に、お互いの熱が伝わりあって身体が熱くなっていく。
どうしたらいいのか、本当は何が正しいのかも分からなくなってしまう。
ただ、自分が試されていることだけは解った。

もしも、ほんの少しでも嫌悪や拒絶の気配を感じれば、レンはすぐにこの“兄妹ごっこ”を止めてしまうだろうという確信があった。
そうなった時、ただ飽きて放り出されるのならば別にいいが、もっとずっと恐ろしい事態になりそうで、なまえはそれが怖くてたまらないのだ。
だからレンが望むように良い“妹”であろうと努めた。

「…勘の良い子だ」

「お兄ちゃん?」

「いえ、なんでも。ただの独り言です」

濡れた唇を舐めると、レンはにっこり微笑んだ。



  戻る 
1/2

- ナノ -