「なまえ、おいで」 両腕を広げて招くレンの元に素直に歩み寄ると、ぎゅっと抱きしめられた。 テツなどに比べれば幾分細身ではあるが、彼は男で、ひとつ年下の異性であるなまえとは身体つきからして全く違う。 こうしてすっぽり腕の中に収められてしまえば、彼が意外なほどしっかりした体格をしていることが分かった。 自分とは違う肉体。 自分とは違う匂い。 自分とは違う、男の人のからだ。 こんなことをされて恥ずかしくないわけがない。 でも、ようやく少しだけ慣れてきた。 「ん……いい匂いですね、なまえは」 なまえの身体をちょっと持ち上げるようにして浮かせ、首筋に頬をすり寄せているレンを拒む気も起こらない。 首筋に吐息がかかり、柔らかい唇が肌をかすめた時は、さすがにほんの少しぴくんっと反応してしまったが、彼を押しのけるようなことはしなかった。 「仲が良い兄妹はこうしてスキンシップをとるものなんですよ」などと笑顔で言い切られてしまえば、口答えも出来ない。 だからなまえは、頬にキスをされた時も大人しくしていたし、近づいてくる唇を目を閉じて受け止めた。 バードキス、というのだとレンが教えてくれたそれは、ちょっとくすぐったくて、何だか胸の奥がきゅんとなる感触のものだった。 「あの…お兄ちゃん、」 「口を開けて」 「ん……はい」 舌で舌を舐められる。 唇をぴったりと深く重ね合わせてするそれは、今日が始めてだった。 何度も繰り返される内に、お互いの熱が伝わりあって身体が熱くなっていく。 どうしたらいいのか、本当は何が正しいのかも分からなくなってしまう。 ただ、自分が試されていることだけは解った。 もしも、ほんの少しでも嫌悪や拒絶の気配を感じれば、レンはすぐにこの“兄妹ごっこ”を止めてしまうだろうという確信があった。 そうなった時、ただ飽きて放り出されるのならば別にいいが、もっとずっと恐ろしい事態になりそうで、なまえはそれが怖くてたまらないのだ。 だからレンが望むように良い“妹”であろうと努めた。 「…勘の良い子だ」 「お兄ちゃん?」 「いえ、なんでも。ただの独り言です」 濡れた唇を舐めると、レンはにっこり微笑んだ。 |