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「僕に足りないものは癒し系の妹だったんです」


ある日、雀ヶ森レンが口走った言葉に、さすがのテツもアサカもすぐには言葉が返せなかった。

「と言うわけで、苗字なまえという子を連れて来て下さい。今すぐ」

無邪気な笑顔で続けたレンに、やはりテツもアサカもすぐには言葉が返せなかった。


「ど、どうして私なんですか……!?」

「すまない。我々が談笑しているところをレンに見られていて、それでお前に白羽の矢が立ったらしい」

君に決めた!とポケットカプセルに入れて戦うゲームの台詞がなまえの頭に浮かんだ。
当然、レンの声で脳内再生された。

「アサカやスイコでは…その…癒し系にも妹にもなれないと……」

年齢的にも性格的にも。
テツが言い難そうに言う。

なるほど確かに、となまえは思った。
ご主人様に対してのみ従順で尽くし系ドMになる女王様や、腹黒お姉さまなど、華やかな美人女幹部が揃ってはいるが、確かに癒し系や妹系はいない。
むしろ今にも修羅場が勃発しそうな雰囲気だ。

と言うか、癒し成分ならテツさんがいるじゃないですかとは思ったものの、これ以上彼の気苦労を増やすのも申し訳ないので、なまえは自分でよかったらとその申し出を了承したのだった。

そうして連れて行かれたなまえを見て、レンは瞳を輝かせた。
それは新しい玩具を手に入れた子供のように純粋で無邪気な残酷さを秘めた輝きだった。

「今日から君は僕の妹ですよ、なまえ」

「はい、レン様」

「ああ、ダメですよ、ちゃんとお兄ちゃんと呼んでくれないと」

「お…お兄ちゃん」

「はい。なんですか、なまえ」

「きゃっ」

ぬいぐるみをそうするように、後ろ向き抱っこの形でぎゅうっと抱きしめられたなまえは赤くなって慌てた。

「兄妹のスキンシップですよ。フフ…なまえはふかふかしていて気持ちいいですねぇ」

レンの長い髪がなまえの首筋に触れてくすぐったい。

「レ…お兄ちゃん、くすぐったいです」

「ん?くすぐりごっこがしたいんですか?よーし、負けませんよ!」

こちょこちょこちょ。
なまえをくすぐりまくるレンと、笑いながら身をよじってくすぐったがるなまえ。

レンは上機嫌だったがテツは複雑だった。
自分が目をかけていたせいで、という責任を感じているせいもある。

だが、やりたいようにさせておけばいずれ飽きるか、もしくは諦めるだろう。
テツはため息をついて暫くこの状況を見守ることにした。


が、嵐は海からやって来たのだった。


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