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なまえは広縁に立って庭を眺めていた。

その姿はいかにも少女らしく瑞々しい明るさを備えていながらも、清楚で神秘的な雰囲気も相まって、古めかしい家屋に不思議と溶け込んでいて、まるで違和感を感じさせない。
彼女が穏やかな眼差しを注ぐ先には、雨に濡れた草木が独特の匂いを放ちながら風に揺れている。

「なまえ、風邪をひくよ」

「うん…もう少しだけ」

真冬の風は身を切るほどに冷たい。
戦いの場においては鬼神の如き強さを誇る武人なのだと分かってはいても、雨に打たれる庭を見つめるその姿は儚げで、どうしても心配になってしまう。
何か羽織る物を取りに行くべきかと、一瞬逡巡した末に、如月はもっとも手っ取り早い方法で彼女を温めることにした。
すなわち、なまえの身体に腕を回して、後ろからゆるく抱き締めたのだ。

「あったかい…」

「君もね」

思わず笑みが漏れるほど、抱き締めた細い身体は暖かかった。
小動物めいた体温の高さを保ったままのなまえの身体に、これならば大丈夫かと安堵する。
むしろ、体温が低いことを自認している彼のほうがぬくもりを分け与えて貰っているようだった。
本当に彼女には色々なものを貰ってばかりだ。

「雪が降りそう」

背を男の胸に預け、ゆるく巻き付いた腕に自分の手を重ねて、なまえがそっと呟く。

「そうしたらホワイトクリスマスになるね。一緒に過ごした最初のあのクリスマスみたいに」

如月翡翠は、もともと誰にでも愛想を振り撒くような社交的な性格をしているわけではないと自覚している。
それが、彼女に対してだけは「メロメロになって見ていられない」とは、村雨の談である。
きっと今も蕩けそうに甘い表情になってしまっているのだろうなと自分で思いながら、彼は「そうだね」と相づちを打った。

「翡翠は雪は好き?」

「玄武だから…というと安直な気もするけど、僕もこんな日は嫌いじゃないよ」

──玄武。
彼の宿星。
そして、飛水流の血。
そんな己の運命(さだめ)に苦しみ、葛藤した頃もあった。
祖父の言葉に縛られ、忍としての使命に頑なに拘るあまり、他者を寄せ付けず、この命を賭しても従わねばならぬものなのだと思い詰めていた時期もあった。
乗り越えられたのは、ともに戦った仲間達と、何よりもなまえのお陰だ。

玄武は黄龍を守る為に在る。
その運命が、これほど甘美な枷になる日が来ようとは思いもよらなかった。



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