「さあ、もう中に入ろう。せっかくのクリスマスに風邪をひくのは嫌だろう?」 からかう声音で言えば、なまえは困ったように微笑んだ。 「でも、クリスマスのお祝いなんてしないでしょう?」 「そんなことはないよ」 如月はなまえを部屋に引き込み、戸を閉めながら言った。 極秘で物事を進めるのは彼の得意分野だ。 可愛い妻に秘密を持つのは複雑な気分ではあったが、彼女を驚かせる為、この日に向けて密かに準備してきたのである。 「今年はケーキと御馳走を用意してあるからね。勿論、プレゼントも」 「本当!?」 なまえは飛び上がらんばかりに喜んで如月に抱きついた。 「嬉しい…! 有難う、翡翠!」 「そんなに喜んで貰えて僕も嬉しいよ。準備した甲斐があった」 まあ、クリスマスディナーやケーキが和風のこの家に合うかどうかはともかくとして、一般の新婚夫婦が迎えるクリスマスならではの甘い雰囲気ならば、十二分に味わえそうだ。 「じゃあ、向こうに──」 言いかけた声を遮るように、ガラリと戸の開く音が聞こえてきた。 「なまえ、いるかい?」 続いて聞こえてきた声は壬生のものだ。 思わず舌打ちしそうになる。 休業札を出すだけではなく、施錠もしておくべきだった。 なまえがぱたぱたと駆け出していく。 如月も直ぐに後に続いた。 「紅葉、いらっしゃい」 「やあ、なまえ。はいこれ。クリスマスプレゼント」 「わあ…! 有難う! これから翡翠とクリスマスの御馳走とケーキを食べるところだったの」 「そうなんだ。僕も一緒に食べて行ってもいいかな?」 壬生が笑う。 今年も二人きりのクリスマスは過ごせそうになかった。 |