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北区王子。
昔ながらの町並みを色濃く残すこの地の一角に、まだ年若い店主が営む如月骨董品店という店があった。

店主の名は、如月翡翠。

美青年と呼ぶに相応しい容貌の彼は、すっきりと伸びた背筋と、その生まれ持った気品から、古式ゆかしい骨董の数々と和装のよく似合う男だった。

母は既に故人。
考古学者の父も行方不明。
天涯孤独の身の上である彼は、学生時代から独りでこの店を守ってきた。

高校もあと一年という年になってから一時期は、とある事情によりバタバタと人の出入りの激しい日々が続いていたものの、卒業してから現在に至るまではまた穏やかな時の流れが戻っている。

かつての『仲間』達は皆それぞれの道を歩き始めており、この店を訪れる事は少ない。
今でも頻繁に顔を出すのは、退魔師となった黒衣の青年くらいのものだ。
その青年にしても、表向きは"仕事"に関わる仕入れや情報収集を理由にしてはいるが、それはあくまでも口実に過ぎない。
真の目的は別にあるのだ。
気持ちは分からないでもない。
分からないでもないが──

「今週になってもうこれで何度目だい?」

「今日で四回目ですね」

「…ほぼ毎日じゃないか」

思わず溜め息も出るというものだ。
ふう、と息を吐いた和服姿の店の主人を、黒衣の客はいつもの平静そのものの顔で見遣る。

「ところで、なまえは何処ですか」

「奥にいる。…壬生、君は一応ここには仕入れの名目で来ているのだから、せめて、まずは商品を見るくらいして取り繕ってくれ」

「必要な物は後で買いますよ。なまえが先です」

「近頃よく思うんだが……君は、なまえが僕の妻だと分かっているんだろうな?」

「勿論です」

じゃあ自重しろ!
如月は整った顔に僅かに怒りの色を滲ませた。
それでも怒鳴りつけないのは、共に死線を乗り越えてきたこの男にそれなりに友情めいたものを感じているからだった。



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