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その日も雨が降っていた。

以前訪れた時と同じく、冷たい雨が降り注ぐ下で、ティエリアは身動ぎ一つせずにその墓を見つめていた。
言葉にするには複雑すぎる幾つもの感情が、彼の胸の内を去来する。

思えば、彼にとってロックオン・ストラトスは、兄や父にも等しい存在だったのだ。
いつだったか、リヒテンダールなどはロックオンを指して「オカンみたいだ」と評した事があった。
おいおい、そりゃないだろと苦笑いしたロックオンは、陽気で御調子者の青年にヘッドロックをかけて怒ったふりをしてみせてはいたが、あれは案外的を射た意見だったのではないだろうか。

今ではもうそんな二人の姿を見る事は叶わない。
二人の肉体は宇宙に溶けて消えてしまった。
だから、この墓石の下は空なのだ。
棺の中には彼の遺品が代わりに納められていた。

「ティエリア」

静かな声とともに、横から花束が差し出される。
黒いワンピースを着たなまえが隣に立っていた。
彼女から受け取った白い百合の花束を墓にたむけ、ティエリアはこれで何度目かの別れと感謝の言葉を心の中で繰り返す。
墓前に花を供えるなど、以前は無意味な行為だと思っていた。
だが、今ならわかる。
死者を悼み、少しでも安らかであれと願う気持ちも。

「行こう」

二つ並んだ傘が墓地から去っていくのを、雨に濡れる百合の花だけが見つめていた。



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