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アメリカのイリノイ空軍基地。
その一角にある居住区では、フラッグファイターと呼ばれるオーバーフラッグス隊の隊員達などの関係者が暮らしていた。

技術者であるなまえもその一人だ。
士官用宿舎ほど豪華ではないが、技術顧問直属のスタッフという事もあり、室内はそれなりに広く、設備も整っている。
──もっとも、なまえは殆どの時間現場か開発室に詰めているので、あまり意味はないかもしれないが。

「これでよし、と」

端末に打ち込んだデータを確認し、うーんと伸びをする。
あとは送信して終わりだ。

久しぶりの休日に何をしようかと考えながらキーを押したところで、不意に玄関の呼び鈴が鳴った。
誰かが訪ねてくるような予定もなければ、心当たりもない。
なまえは怪訝そうな顔で椅子から立ち上がった。

基地内とはいえトラブルが発生しないとも限らない。
まずはモニター越しに訪問者を確認するべきだろう。

「………………」

モニターを覗いたなまえは、一度そこから顔を背け、そうして再度モニターに目を戻した。
そこには、やや鮮明さに欠けるが視認には充分な画像で、金髪の美青年が映っている。
青年は胸に薔薇の花束を抱えていた。
後にAEUのパトリック・コーラサワーがそうしたように。

──居留守を使ったら軍規違反になるだろうか…

そう逡巡した後、なまえは渋々といった風にドアを開いた。
直ぐに輝くような笑顔が目に飛び込んでくる。

「やあ。お早う、なまえ」

「お早うございます、上級大尉殿」

「その呼び方を私は好かない。グラハムと呼んでくれないか」

「そういうわけにはいきません、上級大尉殿」

「君も大概頑固者だな」

グラハム・エーカー上級大尉は、むっとしたように眉を寄せてみせた。
それでもその麗しさには些かの陰りもなかったが。

「これを」

気を取り直したグラハムが、直立不動時と変わらぬ姿勢の良さで背筋を伸ばしたまま、すっと花束を差し出す。
受け取らないわけにもいかず、なまえはそれを両手に抱え込んだ。

「あ…有難うございます…」

「これから一緒に食事をどうかな?」

「いえ、私は……」

「ここへ来る前に、事務局に寄って君の今日の予定を調べてきた。君は本日は一日休暇を取っており、外出許可申請も出ていない。カタギリにも確認したが、特に予定もなくのんびり過ごすつもりだと聞いている」

「………………」

なまえは心の中で上司を恨んだ。
昨日、ほかでもないカタギリから今日の予定を聞かれたのは、この為だったのか。

『せっかくの休みなのだから、ゆっくり息抜きしておいで』

ニコニコと邪気のない笑顔で言ったカタギリのハイスペックな脳内では、既にこの光景が浮かんでいたに違いない。
100%善意からくる行為である以上、文句を言うわけにもいかず、なまえの胃袋はキリキリと痛んだ。



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