ネット通信が普及した事でゲームの遊び方も大きく変わった。
自宅に居ながら手軽に他者と対戦したり協力したり出来るようになったからである。

『魔物ハンター』、通称『まもはん』も、そうした通信プレイを生かしたゲーム内容から、老若男女・学生・社会人を問わず一大ブームとなったゲームである。

その日、ゲーム内の町の広場には、お使い系クエストに挑む為に集まったプレイヤー達がたむろしていた。
強さも装備も様々。
彼らをサポートする相棒である猫達もうろうろしている。
その中で、それぞれ自分の性能やレベルに合った仲間を探しては、数人のグループで固まって目的地に向かっていたのだが、その中の一人が間違って通りすがりのキャラに声をかけてしまったことから事件は起こった。


「もう一度言ってみろ、カス」

蹴り飛ばされて数メートル吹っ飛び、みっともなく地面に転がったまま微動だに出来ずにいる少年ハンターに向かって、銃口を向ける男が一人。
その男はこの辺りでは珍しい、白シャツの肩に黒いコートを引っかけただけのラフな恰好をしていた。
防御重視の重装備の初心者とは明らかに違う。
己のセンスと特殊スキルから選んだものなのだろう。

「てめえ…誰の女にコナかけたかわかってんのか?ああ?」

少年にすごむ男の背後には、男のパートナーである蜂蜜色の髪と瞳を持つ小柄な少女ハンターが佇んでいる。
こちらもまた男の趣味か、はたまたスキルを重視した為か、鎧ではなく愛らしいメイド服を装備していた。
そのキャラカスタマイズにずきゅーんときた少年が、うっかり彼女に声をかけてしまったせいでこんな事態になっているのだった。

「魔獣どもに殺される前にここで死にてぇならそう言いやがれ。今すぐかっ消してやる」

「ままままま待ってくれ!話せばわかる!」

銃口を突きつけてくる男よりも、その後ろでいそいそと調理器具を用意し始めた少女のほうが恐ろしかった。

「ザンザス、お肉の焼き加減はいつものでいい?」

喰う気だ!



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