こんな夜更けに闇と風の中に車を走らせるのは誰だろう。
それは父と娘だ。
父は怯える娘を優しく慰めている。


「どうした?ほら、お父さんがいるから怖くないぞー」

「お父さん…お父さんには骸が見えないの? 迷彩柄のTシャツに黒皮のジャケットを着てる…」

「ん?ありゃただの霧だろ」

「クフフ…可愛いひとだ。一緒に来なさい。僕と面白い遊びをしましょう。綺麗な花も咲いていますし、コスプレ用の可愛い衣装も沢山用意して待っていますよ。小道具もバッチリです」

「お父さん!お父さん!きこえないの?骸が何か怖いこと言うよぉ!!」

「よしよし、落ち着けって。枯葉が風にざわめいているだけだよ」

「いい子ですねぇ、なまえさん。僕と一緒に行きましょう。ね? 千種や犬、クロームもいますよ。心地よく揺さぶって、気持ちいいことを沢山してあげます。僕の下で淫らに踊り、歌って下さい。何なら君が上でもいいですが」

「お父さん!お父さん!見えないの!?あの暗いところに凪ちゃんが!」

「うん、見える見える。でも、あれは古い柳の幹だから安心しろ」

「ああ…Ti voglio,Ti amo! 愛しています、愛しい人!怯える君の愛らしい姿がたまらない。力づくでも連れていきますよ!」

「いやああああ!!お父さんお父さん!骸が捕まえにくる!お嫁にいけなくなるような酷い目にあわされるよーー!!」

父親はぎょっとして車を全力で走らせたが、やっとの思いで着いた時には、助手席にいたはずの娘はいつの間にかいなくなってしまっていた。



 戻る 

- ナノ -