いつものように五条先生の部屋を出て、誰にも見つからないように細心の注意を払いながら女子寮にある自分の部屋に戻る途中のことだった。

「悟のところに行っていたのかい?」

夏油先生に出くわしてしまったのは。

どうしてこんな時間にこんなところに夏油先生が?まさか待ち伏せされていた?
ぐるぐると思考を巡らせる背筋に冷や汗が流れる。

「いえ、あの、」

「誤魔化さなくていい。わかっているから。君達の関係を誰かに告げ口するつもりはないよ」

びっくりするほど優しい声で夏油先生はそう言った。
しかし、ほっとしたのも束の間、

「好きな子のためだからね」

「えっ」

「今更もう遅いかな。もうほんの僅かでもつけ入る隙はない?」

夏油先生が何を言っているのかわからない。頭が理解することを拒んでいた。
それでも勝手に身体は動くもので。

五条先生の部屋へ引き返すために踵を返して走り出そうとしたのだが、一瞬のうちに距離を詰めていた夏油先生に背後から抱き締められてしまった。

「いきなり逃げ出すなんて酷いじゃないか。悪い子だ」

不義理をなじるように、夏油先生が囁く。
夏油先生の長い黒髪。それが先生の肩口から滑り落ちて私の首筋をくすぐる。
どうしようもなく身体が震えてしまい、歯の根が合わない。

「大丈夫、怖くないよ」

優しく甘やかな声で夏油先生が言った。

「気持ちのいいことしかしないから」


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