早朝の呪術高専は敷地内の大半が朝もやに包まれている。その中を軽く腕のストレッチをしながら歩いていくと、あまり人目につかないベンチに夏油となまえが並んで座っているのが見えた。

「おはよう、なまえ。今日も可愛いね」

「朝っぱらからナチュラルに教え子を口説くんじゃない」

夏油にぴしゃりと叱りつけられるが、五条は全く気にせずへらへらと笑いながら二人の前に立った。
困ったように笑うなまえも可愛い。五条はこの十歳以上も年の離れた少女に夢中だった。らしくもないが、この歳になってようやく巡り逢えた運命の相手だと思っている。つまるところ、初恋である。

「傑、なに食べてんの?」

「見ての通り、鮭おにぎりだよ。なまえが作ってくれたんだ」

「そっちのスープジャーからめちゃくちゃうまそうな匂いがしてんだけど」

「なまえが作ってくれた味噌汁だよ」

「はあ?なんでお前だけ!僕もなまえのおにぎりと味噌汁食べたい!」

「えっ、でも、五条先生、前に『他人の手作りなんてぜーったい無理。オッエー』って」

「なまえは別だよ。僕の初恋なんだから」

五条は黒い目隠しを指で引き下ろして隠されていた素顔をあらわにすると、きゃるんと擬音がしそうなかわいこぶった表情で少女を見つめた。

「どうしてもダメ?」

「うっ……わ、わかりました。作って来ますからちょっと待ってて下さい」

「やったー!」

「大人げないよ、悟」

立ち上がろうとしたなまえを夏油がさっと自分の膝の上に抱き上げる。

「私のささやかな幸せな時間を邪魔しないでくれ」

「ね?」となまえに微笑みかけて、夏油は彼女の柔らかな頬を優しく撫でた。なまえの頬が薔薇色に染まる。
彼女を見つめる親友の幸せそうな顔と言ったら、もう。

「あ、あの」

いい雰囲気になりかけたのを邪魔したのは五条だった。夏油の膝の上からなまえをさっと奪い取って抱き上げると、親友をその場に置き去りにして走り出したのだ。

「ええっ!?ちょ、五条先生」

「喋ると舌噛むよ」

向かった先は女子寮だ。なまえの部屋に到着すると、五条は勝手知ったるなんとやらですたすたと室内に入って行き、なまえを下に降ろした。

「僕も鮭おにぎりと味噌汁でいいからね」

にこにことそう告げる五条はご機嫌だった。
なまえが作ったおにぎりと味噌汁を置いて来るわけにはいかないはずだから、夏油が追いかけてくるまでまだ時間があるだろう。それまでは二人きりだ。料理を作るなまえを後ろから抱き締めてイチャイチャ出来る。

「もう、五条先生ってば」

「あはは、ごめんねー。ほら、僕こう見えて嫉妬深いからさ。なまえが傑に手料理食べさせたの見て嫉妬しちゃった」

「仕方ないなあ……ちょっと待ってて下さいね」

うん。待ってるよ。
お前が卒業するまで、ちゃんとお預けされて待っててあげる。

「でも、これくらいはいいよね」

「あっ、ちょっと、五条先生!」

味噌汁を作るなまえを背後から抱き締めてその頭頂部にキスを落とすのと、物凄い勢いで夏油がドアを開けて飛び込んで来たのはほぼ同時の出来事だった。


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