「お待たせー。あーさっぱりした」

タオルで無造作に頭をがしがし拭きながら浴室から出て来た五条さんに、私は待っていましたとばかりにドライヤーを手にした。もう、いつも適当なんだから。

「髪乾かしますからここ座って下さい」

「はは、サービスいいね」

ベッドに腰を降ろした五条さんの背後に膝立ちし、私はドライヤーを片手に彼の髪を乾かしにかかった。

「お前はほんと僕の髪好きだよね」

「だって、こんなに綺麗な髪なのに、五条さんいい加減だから勿体無くて」

「大げさだなあ。髪なんて自然乾燥で充分だって」

「だめですよ。ちゃんとドライヤーで乾かさないと」

「んー」

ふわふわの白い髪は指通りが良く、いつまでも触っていたくなる。
でも、もちろんそんなわけにはいかないので、髪が傷まないように手早く温風で乾かしてから最後に冷風で仕上げた。

「もうキスしてもいい?」

五条さんが振り返って私を見上げてくる。
きゅるるんとした表情に騙されそうになるが、この人はとんでもなく強い肉食獣だ。
これが擬態であることを私は知っている。

私がドライヤーを置いたのを見て、五条さんは私の手首を掴んで引いた。軽くだったけど、それだけで一瞬のうちに態勢が入れ替わってしまう。

五条さんの膝の上に抱かれる形となった私は、覆い被さって来る大きな身体に本能的な恐怖を感じながらも逃げることは出来ずにいた。
唇を柔く食まれ、舌で舐められて思わず口が緩んだ拍子に生暖かいそれが侵入してくる。舌で歯列をなぞられ、口蓋を舐め上げられて背筋がゾクゾクした。

「は、……ん……」

舌と舌が絡んで、軟体動物のようなそれの動きに翻弄される。
唇と唇が離れ、どちらのものともつかない唾液を嚥下する。

五条さんの膝から降ろされ、深く息をついた私を、彼は人の悪い笑みを浮かべながら見下ろしていた。

「な、なんですか?」

「別に?可愛いなあと思っただけだよ」

言いながら五条さんがベッドに寝そべる。
そうして彼は毛布と掛け布団を一緒に捲り、片手で軽く自分の隣に空いた空間をぽんぽんと叩いてみせた。

「ほら、寒いから早くおいで」


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