朝起きると、テーブルの上にケースに入った一枚のDVDが置かれていた。
困惑しながらケースから取り出し、デッキに入れてみる。
すると、テレビ画面に一人の男が映し出された。


『初めまして。運び屋の赤屍蔵人と申します。
実は、貴女とは以前お逢いしたことがあるのですが、覚えていらっしゃらないでしょうね。
いえ、責めているわけではありません。
ただ、私にとってそれは運命の出逢いとも呼べるものでした。
一目見た瞬間から、私は貴女の虜となってしまったのです。
これは全く想定外の事態でした。
というのも、私は貴女の知り合いのAさんから貴女をあの世に“運ぶ”よう依頼されていたからです。
原因は、そう、貴女が最近親しくなった彼のせいですよ。
どうやらAさんは彼に横恋慕していて貴女が目障りだったようです。
何とも身勝手な動機ですね。
しかし、私も仕事ですので、愚かなことと思いながらも、ターゲットである貴女に近づいたわけです。
そして、貴女を愛してしまった。
ええ、これは間違いなく愛です。
私は貴女ではなく依頼人のAさんを殺しました。
私にかかれば容易いことです。
Aさんの死は貴女もご存知ですね。
そう、あれは私の仕業です。
ですから悲しむことはありません。
彼女は貴女を殺そうとして逆に殺された愚かな女性なのですから。
ただ、ここでひとつ問題が発生しました。
報酬です。
仕事には報酬がつきものなのです。
そこで私はいま一番欲しいものを頂いていくことにしました。
もうおわかりですよね。
ええ、貴女です。
貴女を私のものにするべく、お迎えに上がった次第です。
何も怖いことなどありません。
大人しくしていて下されば、そのままお連れして、あとはただひたすら大切にすると約束します。
貴女に手荒な真似はしたくない。
良い子ですから、抵抗などせずに私に攫われて下さい。
貴女を心から愛しています」


映像はそこまでだった。
真っ暗になったテレビ画面に私の青ざめた顔が映っている。

背後にあるクローゼットが静かに開く音が聞こえてきた。


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