「いらっしゃいませ。来て下さったんですね」

そんな風に嬉しそうに出迎えられると、勘違いしてしまいそうになるからやめてほしい。
ただでさえ安室さんのチャーミングな笑顔は心臓に悪いのだ。

ドキドキうるさい鼓動が聞こえていませんようにと祈りながら、平静を装って席につく。

「これ、メールでお話したクッキーです」

お水のグラスと一緒に渡されたのはリボンでラッピングされた袋だった。
透明なので中身のクッキーが見える。

「ありがとうございます。美味しそうですね」

「そう言って頂けると嬉しいな。実は僕の手作りなんです」

「安室さんの?」

それで女性客がいつもより多いのか。納得した。

「本命のお返しのほうは後でお渡ししますね」

ないしょ話をするように安室さんに耳元でひそひそと囁かれて私は赤くなった。

「ほ…本命?」

「ええ、もちろん」

にこにこと微笑む安室さんは美しいが、それが本心であるのかどうかはわからない。

ただ、注文に応えてカウンターに向かう前に密かに触れ合わせた手のぬくもりだけが、これが現実なのだと教えてくれていた。


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