高級割烹温泉旅館というと何とも長ったらしいが、要は高級割烹並みの料理が自慢の温泉旅館ということらしい。

その敷地内に一歩足を踏み入れた瞬間、なまえは何とも言えない奇妙な感覚を覚えた。

「どうしたの」

「いえ…何でもありません」

怪訝そうな眼差しを向けてくる雲雀に、首を振って微笑みかける。

「素敵な旅館だなあと思って。あんまり立派な建物だから、ちょっと緊張しちゃったみたいです」

雲雀は「そう」と言ってかすかに口角を吊り上げた。

「赤ん坊に紹介して貰ったんだ」

「リボーンに?」

その名前を聞いた途端、胸の中のモヤモヤした何かは明確な形を取った。
一言で表すなら“嫌な予感”、だ。


───


雲雀はここでもやはり着流しだった。
堂々たるその姿は、客ではなく宿の主人に見えるほどの風格を漂わせている。
獄寺などに言わせれば「相変わらずふてぶてしい野郎だぜ」ということになるのだろう。
何処に行こうとも彼は雲雀恭弥なのだった。

「恭弥さん、温泉はどうしますか?大きな露天風呂があるみたいですけど」

「部屋付きのに入るからいいよ」

群れがいるかもしれないと判っている場所にわざわざ出向く男ではないとは言え、実にあっさりとしたものである。

茶をすする雲雀に、なまえはやはりそうきたかと苦笑した。
着流しの襟元から伸びた白い首筋は、女のそれとはまた違った色香がある。


───


雲雀はゆったりとした手つきでなまえの腹を撫でている。
何度も、何度も。
気持ちいいけど、目付きがちょっと怖い。

「恭弥さん…?」

腹を撫でる手はそのままに、雲雀は艶めいた笑みをこぼした。

「早く妊娠しないかなと思って」


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以上、「雲雀と温泉郷さんぷる」でした。
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