ぱっかん。 キッチンから微かに聞こえてきたその音を聞きつけた途端、両目をカッと開いた猫の『毛玉』がキッチンにすっ飛んで行った。 ダダダダダッ!と駆けていって姿が見えなくなったと思ったら、にゃーにゃーと甘えた鳴き声が聞こえてくる。 「違いますよ。これはなまえさんのご飯です」 そして、それを諭すような優しい声。 「私のじゃなかった…」と言いたげな顔でとぼとぼと戻ってきた毛玉を見て、なまえは思わず笑ってしまった。 そのまま誤魔化すように毛玉が目の前で伸びをする。 なまえにお尻を向けて尻尾をピンと立ててるせいでお尻の穴が思いっきり丸見えだけど、でも可愛い。 「お待たせしました」 食事が乗ったトレイを赤屍が運んで来ると、名前の通り丸くなって眠ってしまっていた毛玉がぱちっと目を覚ました。 またもや甘えた声をあげながら彼の足元にすり寄っていく。 一緒に暮らすようになってから赤屍となまえは食事の支度を交替でやっていた 。 今日の夕食は彼が当番なのだ。 「おやおや…食いしん坊なのは誰に似たのでしょうね」 笑って猫を構う赤屍に代わって配膳をしながら、なまえは「さあ?赤屍さんじゃないですか?」ととぼけてみせた。 毛玉は正真正銘なまえの飼い猫だが、赤屍と交際を始めてからはなまえよりも彼のほうによく懐いている。 飼い主としては少々複雑な心境だ。 「わあ、美味しそう!もういただきますしてもいいですか?」 「もちろんです」 早速いただきますを言って食べ始める。 今日の献立はキャベツと生ハムのスパゲティだ。 味付けは塩と胡椒とオリーブオイルのみで、あっさりしていて食べやすい。 「本当に料理上手ですよね、赤屍さん。家事しそうなイメージがなかったから、最初は凄く意外でした」 「長い間一人暮らしをしていますからね、一通りの事は自分で出来ますよ」 「そういうものですか?」 「そういうものですよ」 彼の言う通り一人 暮らしの経験が長ければ当たり前なのかもしれないが、赤屍は料理も洗濯も掃除も難なくこなしてしまう。 生活感というものが全く感じられず、私生活が謎に包まれていた運び屋の意外な一面である。 銀次に話した時も、「えっ!?赤屍さん料理出来るの!?」と驚いていた。他の面々も大体似たような反応だった。 ただ一人、蛮だけは妙な表情をしていたが。 「あー、また甘えてる!」 ご馳走さまでしたと挨拶をして食器を下げて戻ってくると、毛玉は赤屍の膝の上で丸くなって撫でて貰っていた。 「だめだめ、今度は私の番」 不満そうな声をあげる猫を抱き上げ、今度は自分が彼の膝の上に頭を乗せてころんと転がる。 もう毛がつくとかはどうでも良かった。 クスッと笑う声とともに、さっきまで猫がそうされていたように大きな手が優しく頭を撫でてくる。 「ペットは飼い主に似ると言いますが……甘えん坊さんなところも本当にそっくりですね」 |