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ようやく覚えたボーゲンでなんとか麓のレストハウスまで辿り着き、私は一息ついた。
ここまで来るのに何度転びそうになったことか。
息はきれているし、スキーウェアの中は汗びっしょりだ。
そんな私の目の前で、リヴァイ先生は雪を蹴たてて鮮やかにターンを決めて止まってみせた。

「わっ!」

たちまち雪まみれになる。ゴーグルが粉雪まみれになって、何も見えない。

「ハッ、いい格好だな」

先生の声が聞こえる。
私はゴーグルを外しながら、身体についた雪を払い落とした。

「どうせ私は滑るより転がる方が似合ってますよ」

「いや、結構上達したんじゃねぇか。来た時に比べればましになった」

これは素直に喜んでいいのだろうか。
先生もゴーグルを外したけれど相変わらずの無表情なのでよくわからない。
鋭い目つきのイケメンと言えば聞こえはいいが、とんでもなく怖い人なのだ、リヴァイ先生は。

「褒められたらもっと喜べ」

「は、はい、有り難うございます」

やはり褒められていたようだ。
わかりにくいよお、先生。

近くにいた女子大生らしきグループがさっきからしきりにこちらを気にしている。
声をかけようかどうしようか迷っているのかもしれない。
純白のスキーウェアに身を包んだ先生はずっと注目の的だった。
男性にしてはやや小柄だが、何よりその人間離れした身体能力が垣間見えるテクニックにゲレンデの女の子達の視線は釘付けだ。

そのウェアの下に鍛え抜かれた肉体が隠されていることを私は知っている。

「よし、上級者コースに行くぞ」

「ええーまだ無理ですよ!」

「無理じゃねえ。それとも俺の指導に問題があると言いてぇのか」

「そういうわけじゃ……あ、ほら、空模様も怪しくなってきたし、もう帰りましょうよ」

私は空を指して訴えた。
嘘ではない。
さっきまで晴れていた空はどんよりした雲に覆われつつある。
先生は天を仰いで舌打ちすると、私に向き直った。

「仕方ねぇな…帰るぞ」

「はい!」

雪がちらちらと舞い降りはじめた中、私と先生は駐車場に止めてある車まで戻った。
雪道でも力強い安定の走行を見せてくれる頼もしいBMWだ。

エンジンを始動させ、駐車場を出ながら、先生はちらりと空に目をやった。

「今夜は荒れるかもしれねぇな」

それはまるで予言のようだった。


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