1/3 


夜の帳が降りた、アッシュフォード学園の敷地内。
広々とした緑の多い広場から校舎に向かって続く道にある外灯に、一斉に灯りがともる。
そしてこのクラブハウスの窓からも明るい光が漏れていた。

食卓を囲むのは、ルルーシュとナナリーのランペルージ兄妹となまえ、そしてスザクだ。
それぞれが複雑な事情を抱える身であったが、どの顔にも今は憂いの色はない。

「遠慮なく食べていけよ。どうせ軍ではろくな物を食べてないだろ」

「はは、確かに。大分慣れたけどね」

「スザクさん、おにぎりは私が握ったんですよ」

「ナナリーが? そうだっんだ、うん、凄く美味しいよ」

うふふ、と嬉しそうに笑うナナリーと、おにぎりを頬張るスザクを見て、ルルーシュとなまえはそっと視線を交わした。
二人ともスザクに対するナナリーの気持ちを知っているので、少しでも彼らの仲が深まってくれればと願っているのだ。
勿論、妹を溺愛する兄として、ルルーシュからすると少々複雑な想いもあったのだが。

「──あれ?」

スザクが皿の上の新たなおにぎりに手を伸ばした時、何処からかくぐもった電子が響いてきた。
いち早く発信源に気が付いたスザクが制服のポケットを探る。
思った通り、それは携帯が発する着信音だった。
彼に注目している他の三人に目顔で断って、通話ボタンを押す。

「はい───はい、そうです」

スザクがちらりとルルーシュのほうに視線を向けた。
ルルーシュの気遣わしげな眼差しとぶつかり、翡翠色の瞳に僅かに申し訳なさそうな色が浮かぶ。

「いえ、直ぐに戻ります。はい、失礼します──」

ナナリーやルルーシュと同じく、自然と食事の手を止めて見守っていたなまえが静かに立ち上がる。
通話を終えたスザクは、今度ははっきりと申し訳なさそうな顔をして、ルルーシュとナナリーに向かって口を開いた。

「ごめん、戻らないと」

「そうか…残念だが、仕方ないな」

ルルーシュが苦笑する。
そう。
仕方がないのだ。
本来、イレブンは携帯電話の所持を許可されていない。
ブリタニアへの反乱を防ぐ為の決まりなのである。
その規則を曲げてまで持たされているということ。
それはつまり、そうすることが軍の職務に必要となるからに他ならない。
スザクに拒否権はないのだ。
そんな風に自由を縛っているはずの場所へ『戻る』といった友人の言葉は、少なからずルルーシュの心に波紋を投げかけたが、ここで引き留めたりすれば、スザクを困らせてしまうだけだと解っている以上、送り出してやるしかない。



  戻る 
1/3

- ナノ -