夜の帳が降りた、アッシュフォード学園の敷地内。 広々とした緑の多い広場から校舎に向かって続く道にある外灯に、一斉に灯りがともる。 そしてこのクラブハウスの窓からも明るい光が漏れていた。 食卓を囲むのは、ルルーシュとナナリーのランペルージ兄妹となまえ、そしてスザクだ。 それぞれが複雑な事情を抱える身であったが、どの顔にも今は憂いの色はない。 「遠慮なく食べていけよ。どうせ軍ではろくな物を食べてないだろ」 「はは、確かに。大分慣れたけどね」 「スザクさん、おにぎりは私が握ったんですよ」 「ナナリーが? そうだっんだ、うん、凄く美味しいよ」 うふふ、と嬉しそうに笑うナナリーと、おにぎりを頬張るスザクを見て、ルルーシュとなまえはそっと視線を交わした。 二人ともスザクに対するナナリーの気持ちを知っているので、少しでも彼らの仲が深まってくれればと願っているのだ。 勿論、妹を溺愛する兄として、ルルーシュからすると少々複雑な想いもあったのだが。 「──あれ?」 スザクが皿の上の新たなおにぎりに手を伸ばした時、何処からかくぐもった電子が響いてきた。 いち早く発信源に気が付いたスザクが制服のポケットを探る。 思った通り、それは携帯が発する着信音だった。 彼に注目している他の三人に目顔で断って、通話ボタンを押す。 「はい───はい、そうです」 スザクがちらりとルルーシュのほうに視線を向けた。 ルルーシュの気遣わしげな眼差しとぶつかり、翡翠色の瞳に僅かに申し訳なさそうな色が浮かぶ。 「いえ、直ぐに戻ります。はい、失礼します──」 ナナリーやルルーシュと同じく、自然と食事の手を止めて見守っていたなまえが静かに立ち上がる。 通話を終えたスザクは、今度ははっきりと申し訳なさそうな顔をして、ルルーシュとナナリーに向かって口を開いた。 「ごめん、戻らないと」 「そうか…残念だが、仕方ないな」 ルルーシュが苦笑する。 そう。 仕方がないのだ。 本来、イレブンは携帯電話の所持を許可されていない。 ブリタニアへの反乱を防ぐ為の決まりなのである。 その規則を曲げてまで持たされているということ。 それはつまり、そうすることが軍の職務に必要となるからに他ならない。 スザクに拒否権はないのだ。 そんな風に自由を縛っているはずの場所へ『戻る』といった友人の言葉は、少なからずルルーシュの心に波紋を投げかけたが、ここで引き留めたりすれば、スザクを困らせてしまうだけだと解っている以上、送り出してやるしかない。 |