その日、いつものように咲世子が脱衣所に赴くと、洗濯物が入っている籠が空になっていた。 シーツなどの大きめの洗濯物用にしている籠である。 おや、と思いつつ洗濯機のある場所へ向かえば、思った通り、微かな作動音を響かせながら既に洗濯機が回っていた。 中身は籠に入っていた洗濯物に違いない。 「咲世子さん?」 呼ばれて振り返る。 廊下の向こうからやってきたのはルルーシュだった。 綺麗な顔をしたこの少年は、咲世子が世話を任されているランペルージ兄妹の一人で、学園内にあるクラブハウスで妹のナナリーとともに生活している高校生だ。 本来、咲世子はアッシュフォード家のメイドなのだが、雇主から彼らランペルージ兄妹の世話をするよう言いつけられているのである。 「すみません。洗いたい物があったので、ついでに籠の中の物も一緒に洗っているんです」 「そうでしたか」 隙の無い完璧な笑顔で説明するルルーシュに、咲世子も有能なメイドに相応しい控え目な笑顔を返した。 衣類の入っている籠ではなく、何故わざわざシーツ類のほうの籠を選んだのか……。 疑問に感じたものの、ここで下手に突っ込むのは得策ではないと判断し、「有難うございます、ルルーシュ様」と礼を述べるだけにとどめる。 「では、後はお任せ下さい。終わりましたら私が干しておきますので」 「お願いします」 言いながらも咲世子はルルーシュの様子をさりげなく観察していた。 すらりとした細身の長身に、爽やかに白いシャツを着こなし、誰もが羨むほど長い脚は黒いズボンに包まれている。 艶やかな黒髪が普段より鮮やかに見えることから、恐らくはシャワーを浴びて間もないのだろう。 低血圧気味で朝はあまり得意ではないはずが、今朝は随分と機嫌が良さそうに見える。 加えて、閃光の如く閃いた記憶── 朝食の席に現れなかったなまえ。 そんな彼女に自ら朝食を運んでいっていたルルーシュ。 そうなると、おのずと彼が自分で始末したかった「洗濯物」の正体も想像出来ようというものである。 しかしながら、咲世子はプロのメイドとして彼らのプライバシーを守る事を優先した。 すなわち、気が付かないふりをしたのである。 それよりも、急いでやらなければならないことがあった。 |