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「──おい、大丈夫か? しっかりしろ!」

誰かの緊迫した声。
そのただならぬ様子に無理矢理意識を引っ張り上げられるようにして、なまえは目を開いた。

──頭が痛い。
ズキズキと痛みを訴える頭のせいか、状況を把握するのに少し時間がかかった。

身体に伝わる振動。
どうやら何か乗り物の中にいるらしく、上半身を誰かに抱き寄せられているようだ。

「お前……」

はっと息をのむ気配。
ようやく霞が晴れてはっきりしてきた視界に映ったのは、黒髪の少年の姿だった。
何故かひどく驚いた顔をしている。

「なまえ、なの…か?」

そう問いかけてくる声が。見つめてくる深い紫の瞳が、揺れる。

なまえ。
それは間違いなく自分の名前だ。

何が起こっているのかわからないまま、微かに頭を上下させて頷いて見せると、その途端、少年の秀麗な顔が泣き出しそうに歪んだ。
実際、目の前のアメジストは潤んでいるかのような艶を帯びて揺れていた。

「どうして急にいなくなったりしたんだ。ずっと探していたんだぞ」

「探していた? 私を?」

心底不思議そうな口調で聞き返したなまえの前で、アメジスト色の双眸が見開かれる。
ぎゅっと眉根を寄せた少年が低く掠れた声を出した。

「俺を…覚えていないのか?」


 会わせてあげるよ
  ルルーシュに


「──ルルーシュ…」

その名前はごく自然にするりと出てきた。
少年がほっとしたように微笑む。

「そうだ、ルルーシュだ」

「あの…ここは何処なの?」

「何処って…テロリストのトラックの中だろう。お前、どうやって乗ったか覚えていないのか?」

こくりと頷いたなまえの手元にふと視線を向けたルルーシュの眉間に深い皺が刻まれる。
両手首に赤く残る、線上の痕──それは明らかに何かで拘束された痕跡だった。
記憶が混乱しているらしいなまえの様子と合わせて考えてみれば、人質か何かとして捕らえられていたとしか思えない。
トラックを強奪する際に目撃してしまったからか、それとも何か別の事情があったのか。
改めて周囲に視線を走らせるが、なまえを拘束していたものは見つからない。
となると、拘束を解かれてからトラックに乗せられたと考えるのが妥当だろう。
もしかすると、拘束した人物とトラックに乗せた人物は別かもしれない。

「他に覚えていることは? 何でもいい、思い出せる範囲で話してみろ」

なまえが口を開こうとしたその時、大きな揺れが二人を襲った。
表情を険しくしたルルーシュがなまえの身体をしっかり抱き込み、衝撃から守る。

何かを避けて蛇行しているのか、乗り物は左右に激しく揺れ、その度になまえは学生服らしいルルーシュの洋服の胸元に強く押さえつけられた。

「大丈夫か?」

「う、うん、私は大丈夫。ルルーシュこそ、大丈夫?」

なまえを庇う分、ルルーシュの負担は大きいはずだ。
ルルーシュは男性としてはまだ未完成の域を出ない細い身体をしている。
怪我でもしたら、と心配になって白い頬に手を触れて見上げると、綺麗な色をした唇に苦笑が滲んだ。

「心配しなくていい。これでも男だからな、少なくともお前よりは丈夫に出来ているさ」



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