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壊れ物を扱うようにそっと抱き締められて、なまえは瞳を瞬かせた。

「シュナイゼル様…?」

「無理をさせてすまなかったね。君が不安を感じていることは分かっていたのだが……どうしても側から離したくなくて、こんなところまで連れ出してしまった」

安全な鳥籠の中に匿われていたほうが、どんなにか穏やかな気持ちでいられただろうか。

僅かに苦渋を滲ませて告げられる言葉に、なまえはシュナイゼルから与えられた屋敷での生活の事を思った。
環境や人々の違いに戸惑うこともなく、怯えることもなく、ただシュナイゼルの為だけに存在していられる場所。

『殿下は今まで、公式の場に女性を伴って行かれた事は無かったのですよ』

第一皇子と天子との間で交わされる婚儀に出席する為、シュナイゼルとともに中華連邦へ行くのだと告げられたとき、カノンがこっそり教えてくれた。
今回貴女を同行させる事で、正式な婚約者として周知させたいのでしょう、と。

嬉しかったけれど、同時に恐ろしくもあった。
これで失敗すれば、シュナイゼルに恥をかかせてしまう事になると解っていたからだ。
緊張と不安、どうせ自分など彼に釣り合うはずがないのだという卑屈な諦めにも似た気持ち。
シュナイゼルはそれらをすべて見抜いていたのだ。

「…ごめんなさい…」

なまえはシュナイゼルの広い背中に腕を回してギュッと抱き締め返した。

「ごめんなさい…でも、もう大丈夫です。ちゃんと…ちゃんとやれますから」

この男に愛され、愛していこうと決めた時に覚悟していたはずだったのに。

「君が謝ることはない。辛いのなら部屋で待っていても良いのだよ」

幼子をあやすように背中を優しく撫でられる。
なまえは首を振った。

「一緒に行きます。連れて行って下さい」

微かに震える背を撫でてやりながらシュナイゼルは「分かった」と微笑んだ。
そうして、空気に溶け込むようにして佇んでいた副官を見遣る。
視線を受けたカノンは、ふっと笑んで一歩下がった。

「殿下、連絡があるまで一時間ですので」

「充分だよ」

交わされた短いやり取りになまえは一瞬不思議そうにきょとんとした顔でシュナイゼルを見上げていたが、やがて意味を悟って頬を染めた。
今更ではあるのだが、こうした事まで知られてしまうのは、どうしてもまだ慣れない。
主からなまえへと視線を移したカノンは、初々しい様子でシュナイゼルから口付けを受ける彼女に艶然と微笑みかけると、静かにドアから出ていった。



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