2/5 


気が進まぬまま、それでも一番近くにあった皿から小さくカットされた薄いティーサンドをひとつ摘まみ取り、口に運ぶ。
中身はスモークサーモンとチーズだ。
帝国宰相のアフタヌーンティーに出されるものなのだから最高級の品に違いないが、今のなまえにはそれを味わう余裕は無かった。
ティーカップに少しだけ残っていた紅茶で無理矢理喉に流し込む。
空になったカップを置いたところで、まるでタイミングを図ったかのように、ワゴンで淹れたての紅茶が運ばれてきた。
ワゴンを押すのは軍服ではなくメイド服を着た若い女だ。
彼女は会話の邪魔にならぬよう口を開かぬまま目礼をすると、ポットから新しい紅茶を注いでいく。

「有難うございます」

小さく礼を告げると、侍女は僅かに動揺した様子を見せ、それから慌てて目を伏せた。
貴人は本来使用人を空気の如く扱うのが倣いだというが、何かをして貰うのを当然と受け止めるには、なまえの感覚は一般的なそれの域をまだ越えられずにいた。

「なまえ」

役目を終えたメイドが退室し、なまえが良い香りのする湯気をたてたカップに手を添えた途端、シュナイゼルが穏やかな声で呼びかけた。
顔を上げたなまえの目に映るのは、優しげな微笑をたたえたシュナイゼルの端整な顔。
その長身は意外なほど近くにあった。
いつの間にか立ち上がっていた彼は、なまえの直ぐ傍らまで足を進めていたのだ。

「おいで」

手を差し伸べられ、真意が掴めぬままなまえも椅子から立ち上がる。
そっと重ねた手は大きく、温かかった。
手袋を外しているせいで、直接体温を感じる事が出来る。



 戻る 
2/5

- ナノ -