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結論から言うと、結局はリドルの性質を変えるまでには到らなかった。

アレは持って生まれた、いわば遺伝子レベルのものに違いない。
生まれつきのサディストを、そこらの小娘が更正させるなど不可能に等しかったのだ。
だが、何となくではあるが、『最悪の結末』だけは防げたような気がするのは気のせいだろうか…?



ロンドンに建つ一軒の屋敷。
中流家庭が住むには立派過ぎ、上流階級の人間が住むには少々こじんまりし過ぎているその屋敷は、凄まじい勢いで出世しつつある男の最初の新居としては妥当な物件であるとも言える。
数年後には、もっと立派な屋敷に生まれ変わっている事だろう。
その屋敷のリネン室で、なまえは洗濯物にアイロンをかけていた。
ホグワーツ時代の制服とは違う、明らかに仕立ての良いローブやスーツを扱うのは、最初の頃こそ緊張して上手くいかなかったが、今ではすっかり手慣れたものである。
生地を引っ張り過ぎて変な皺を作ってしまう事もない。

一息つこうと顔を上げたなまえの目に、出窓の向こうに舞い降りる一羽の梟の姿が映った。
桟にとまった梟が、嘴でコツコツと窓をつつく。
なまえは畳んだローブを籠に入れると、窓を開いて梟を招き入れてやった。
長距離を飛んで来たらしく、ぐったりして疲れているように見える梟は、利口そうな目でなまえを見上げ、ツイと片足を差し出して見せた。
ほっそりしたその足には細長い筒が結わえつけてあり、中には小さな羊皮紙が折り畳んでしまわれている。
魔法省専用の伝書梟だ。

「お手紙を持って来てくれたのね。有難う」

弱々しい声でホウと鳴いて応えた梟に水をやって、なまえは羊皮紙を開いた。

『明日帰宅する』

美しい字で素っ気なく一言だけ書かれた手紙の署名は、゛T ゛。
ほっとすると同時に、なまえは、おや?と首を傾げた。
確か、今回の出張先はドイツでは無かったか。
となると──

「ねえ、この手紙、いつ……」

水皿に嘴を突っ込んで水を飲んでいる梟に問いかけた途端、玄関のベルがチリンチリンと涼しげな音色を奏でた。



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