少年達は蒼白な顔をしてリドルを見ていたが、「わかったか?」と念をおされると、あたふたと頷いて、先を争うようにしてコンパートメントを出て行った。 引き戸がピシャリと閉められた事で、再び、室内は二人きりになる。 なまえは呆然とした表情でリドルを見つめていた。 何故、リドルは杖も使わずに魔法を使えたのだろう? 何より、まるで何でもない事のように歳上の男の子達をあしらった姿が、ひどく異質なものに思えて恐ろしかった。 「身のほどを知らない馬鹿の扱い方は二種類ある」 リドルが静かな声で言う。 「おべんちゃらを言っていい気にさせて上手く利用するか、こっちが『上』だと体に教えて二度と刃向かわないよう叩きのめすか、どちらかだ」 なまえが声も出せずに震えているのを見ると、リドルは、ふっと表情を和らげて優しげに微笑んでみせた。 そうすると、先程までの冷酷さが嘘のように消え失せて、普通のハンサムな少年に見える。 「心配しなくてもいい。君はあいつらとは違う。どうやら僕の『ガールフレンド』らしいからな」 なまえはどう答えていいかわからなかったが、逆らうのも怖い気がして、ぎこちなく頷いた。 リドルはそれで満足したらしく、なまえから窓の外へと視線を向けた。 「さっき、どの寮に入りたいか聞いたね?」 「う、うん」 窓の外に広がるのは、黄金色の穂波と、緑の田畑。 列車はのどかな田園地帯にさしかかっていた。 リドルの声も穏やかで、さっきの騒ぎが嘘のようだ。 「入学が決まった時からずっと、僕はホグワーツについて調べていた。勿論、組分けについても」 ガタガタと窓ガラスが振動している。 田園地帯の上を長く伸びる鉄橋の上を走っているせいだろう。 「僕はスリザリンに入るはずだ。たぶんね」 リドルはそう言うと、なまえへと視線を戻した。 また、あの赤い光が、リドルの瞳の中でチラチラと不気味な炎のように燃えている。 「だから、君もスリザリンに入れ、なまえ。さっき言っただろう?強い意思さえあれば、組分け帽子は本人の意思を尊重すると」 その時突然、これはこの先の人生を決めてしまうくらい重要な瞬間なのだとなまえは悟った。 しかし、迷っている暇はない。 リドルを真っ直ぐ見つめ返して、なまえは幼いながらに悲愴な気持ちで覚悟を決めた。 リドルを一人にしてはダメだ。 きっと──きっと、いつか恐ろしい出来事が起こるに違いない。 その時に、果たして自分に彼が止められるかどうかはわからないが、少なくとも側にいる事は出来る。 そうして彼に温かい感情を与え続けていれば、もしかしたら…── なまえはそう考えると、恐怖を押し殺して、リドルに微笑んでみせた。 「うん……ずっと、あなたの側にいるわ、トム」 それは、もしかしたら変えられるかもしれない未来の始まり。 |