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ジャケットをハンガーに掛け、白いシャツの袖を腕捲りした降谷さんはめちゃくちゃえっちだ。
キッチンに立ち料理をしている降谷さんを眺めながら、この人は自分の色香をわかっているのだろうかと少し疑問に思う。

降谷さんが訪ねて来たのは突然の出来事だった。
暫く忙しくて連絡が取れなかったから、という彼を部屋に上げてしまったのは失敗だったかもしれない。

特殊な状況下で選択肢が他に無かったからとは言え、私はこの人に初めてを捧げたのだった。
こうして間近にその存在を感じていると、その時のことがまざまざと思い出されてしまって、いたたまれなくなってくる。

真っ白なシャツと褐色の肌のコントラストとか、剥き出しになった肘とか、引き締まった細身の体躯とか、色々とヤバい。

「お待たせ。出来たよ」

降谷さんがテーブルに並べたのは、夏野菜がたっぷり入ったカレーとサラダだった。
どうぞ召し上がれと促されて、いただきますをして食べ始める。

「やはり夏はこれに限る」

スパイスからこだわったというそのカレーは口あたりがまろやかであまり辛くなく、夏バテ気味のお腹にも優しそうだ。
さすが降谷さん。

「お味はどうかな」

「とっても美味しいです」

こうして降谷さんが作ったカレーを食べていると、先ほどまで感じていたモヤモヤが吹き飛んで、いっそ清々しいほど食べることに集中出来た。

「ごちそうさまでした。凄く美味しかったです」

「どういたしまして」

二人で並んで洗い物をして、それから食後のお茶をまったりと楽しんだ。

「今日、泊まってもいいかな」

だから、降谷さんがそう言い出した時はびっくりして思わずカップを落としてしまいそうになった。

降谷さんは微笑んでいるが、その目は真っ直ぐ私を射抜いている。

「卑怯者と思われても構わない。だけど、彼がいない間に、君との関係を揺るぎないものにしておきたいんだ」

「降谷さん……」

不意にスマホから聞こえてきた、着信を知らせるメロディ。
伸ばした手は降谷さんに握り取られてしまった。

「ダメだ。僕を見て」

近付く端正な顔立ち。

鳴り止まない着信音。

罪に堕ちる夜が始まった。


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