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“出入口がない”

それはこの部屋が完全な密室であることを示していた。

部屋は二つ。
私がいた寝室らしき部屋に、キッチンを兼ねたダイニングルーム。
それと、洗面所から続く浴室だ。

寝室のクローゼットはウォークインになっていて、中には男性物と女性物があったのだが、奇妙なことに、セーラー服や婦人警官や警察官の制服などコスプレにでも使うのかと思うような物までが並んでいた。

警察官の制服は、安室さんが本当は公安で、赤井さんがFBIだから?と思ったが盗聴されているといけないので口には出さなかった。
たぶん、二人も不審に思っていることだろう。

「誰かにこの部屋に運ばれたということは、どこかに出入口があるはずですよね?」

「出入口のない完璧な密室の中に俺達が突然現れたというのでなければな」

赤井さんが笑みを浮かべて言った。
そんなことは不可能だとわかっているからだ。
超能力者でもない限り。

どこかに必ず出入口はある。
ただ、今の私達には見えないだけで。

「時間によって現れたり消えたりするとか」

「あるいは何らかの条件を満たした場合のみ出入口が出現する仕組みになっているか、ですね」

安室さんが顎に手を当てて考えこむ。

「換気口は?」

「あるにはあるが、小さ過ぎて人が通るのは無理だな」

赤井さんが即答した。
やっぱり駄目か。
空調が効いているし、窓がない以上換気口があるのは間違いないと思ったのだが、そこから出入りするのは不可能なようだ。

「ちょっとキッチン見て来てもいいですか?」

「俺も行こう。毒見が必要だろう」

壁に凭れていた赤井さんがついてきてくれた。
私が何を心配しているかわかっているみたいだった。
赤井さんが行くなら…ということで安室さんは寝室に残るらしい。

「おかしな真似はするなよFBI。なまえさんに何かあれば…」

「わかっているさ。心配するな」

安室さんはまだ何か言いたげにしていたが、気持ちを切り替えたように私を見た。

「僕は残ってもう少し調べてみます。何かあれば呼んで下さい。すぐ行きます」

「ありがとうございます」

私はお礼を言って寝室を出た。
すぐ後ろを赤井さんがついてくる。

ダイニングも兼ねたキッチンはかなり広かった。
システムキッチンの横には業務用らしき大型の冷蔵庫がある。
ダイニングテーブルには椅子が4脚。
数えてみたら食器も4人分あるようだ。

「3人プラス1か…?」

「予備ということでしょうか」

「気にくわないな。まるではじめから三人でいることを目的に用意されているようだ」

私は冷蔵庫を開けてみた。
飲み物と食べ物がぎっしり詰まっている。

「一ヶ月は食べていけそうだな」

私の隣から中を覗き込んだ赤井さんが感想を漏らす。

まずは無難にミネラルウォーターのペットボトルを取り出してみた。
封を切ろうとすると赤井さんにペットボトルを取り上げられてしまう。

「赤井さん」

「こういうことは男の役目だ、お嬢さん」

そう言って笑うと、赤井さんは封を切ってペットボトルの水を一口含んだ。
舌の上で吟味してから飲み込む。

「大丈夫だ。妙な味はしない」

「いきなり飲んじゃうからびっくりしました」

「まあ、毒が入っている可能性は少なかったからな。俺達を始末したいなら攫った時にとっくにやっているはずだ」

「何か目的があって私達を攫ったということでしょうか?」

「そう考えるのが妥当だろう」

攫われた理由。
それはいったいなんなのだろう。
誰が、何の目的で。

急に不安を感じて肩を震わせた私を赤井さんが抱き寄せる。
落ち着かせるように優しく頭をぽんぽんと叩いてくれた。

「心配するな。俺達がついている。お前に危害は加えさせない。何があっても、な」

本当に包容力のある人だ。
私もしっかりしなくては。


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