今まで普段の生活の中に当たり前に存在していた事だから、特にショッピングが好きかどうかなんて考えた事もなかったが、こうして久しぶりに街に出てみると心が弾むのを感じた。
綺麗な物や可愛い物を見るのは楽しい。

「予備も含めて少し多めに買っておくといい」

「は、はい」

最初は着物を。
なまえに好みを聞きながら、玉章が幾つか選んでくれた。
どれも高そうなものばかりだ。
案の定、提示された代金はギョッとするような金額だったが、玉章は涼しい顔でカードで支払っていた。

「あと、あの、出来れば下着も…」

「ああ、いいよ。行こうか」

「えっ」

「僕が選んであげるよ」

「で、でも」

「構わないだろう。どうせ見るのは僕だ」

「それが問題なんですっ!」

車の脇には、いつもとは違う着物を窮屈そうに着込んだ手洗い鬼が、“若旦那のお付き”といった風情で控えていた。

「苗字さん?」

車に乗り込もうとしたなまえを誰かを呼びとめた。
振り返ってみれば、確かに見覚えのある人物が立っている。
確か、同じクラスになったことがある男の子だ。

「もしかして…臼井くん?」

「そうだよ。久しぶり。まさか、こんな所で会えるなんて思わなかった」

「臼井くんはどうしてここに?」

「俺は遠征中。君は?」

「私はお買い物に」

ちらりと玉章を見ると、彼はまるで品定めをするような目で臼井を見ていた。

「知り合いかい?」

「はい、高校の同級生です」

「臼井雄太です。初めまして」

挨拶をした臼井に向かって、玉章はにっこりと余所行きの笑顔を浮かべてみせた。

「初めまして。玉章と言います。妻がお世話になったようですね」

「…妻?」

「あの、結婚したの。私達」

「えっ!?」

明らかにショックを受けた様子の臼井を見て、玉章の笑みが深くなる。
面白い、とその目が語っていた。
どうやらこの臼井という同級生は密かになまえに想いを寄せていたらしい。

「おいで、なまえ。そろそろ行かないと、帰りが遅くなる」

「は、はい。ごめんね、臼井くん。またどこかで会えたらいいね」

「苗字さん…」

玉章がなまえの肩を抱き寄せて車に乗り込ませる。
続いて自分も車に乗ろうとした瞬間、彼は臼井に微笑みかけるのを忘れなかった。
それは、言わば勝者の笑みとでも言うべきもので、玉章が思った通りの効果を臼井に与えた。

「玉章さん?」

動き出した車の中。
玉章に軽くキスをされたなまえは、不思議そうに夫である男を見上げた。

「いや、何でもないよ。それより、化粧品とスキンケア用品も必要だろう。そちらも余裕を持って予備を買っておくといい」

「はい、ありがとうございます」

何も知らないなまえは、私の旦那様はなんて気のつく優しい人なのだろうと惚れ直していた。


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