ふとした事からぬらりひょんが久万山を訪れた時の話になった。
あの時はそれまで知らなかった真実が次々と明らかになって驚いたものである。

「自分を騙していた男を信じてついてくるなんて、君はとんだ御人好しだね」

玉章本人にはそう苦笑されてしまったけれど、自分でも不思議に思っているぐらいなので仕方がない。

「君はもっと警戒心をもったほうがいい」

「そんなに危なっかしく見えますか?」

「僕は心配しているんだよ。君が悪い男に騙されるんじゃないかとね」

「今まさに現在進行形でものすごく悪い男の人に騙されてる最中なのでもう手遅れな気がします」

「ふふ…酷いな、僕は君を騙した覚えはないよ」

散策の足取りでゆったりと歩く玉章の足の下で、草についた霜が音を立てる。
いつものようになまえの神通力の訓練に付き合ってくれた後、屋敷へと帰る途中のことだ。

季節はめぐり、久万山には本格的な冬が訪れていた。
先日積もった雪がようやくとけたと思ったら、またもや雲行きが怪しい。
空を見上げたなまえは表情を曇らせて玉章を見た。

「玉章さん…」

分かっていると言うようになまえの視線を受けた玉章もまた、鋭い眼差しを空へと目を向ける。
人間の目にはただの雷雲に見えるのかもしれないが、二人にはそれが強大な“畏れ”を孕んだ暗雲であることが感じとれた。

その雲の下を何か大きな黒い鳥のようなものが飛んで来たかと思うと、二人のすぐ目の前に舞い降りてくる。

「やれやれ…狐が蘇ったりカラスが降って来たり、近頃は随分忙しいことだね」

険しい表情で玉章を見上げたそれは、奴良組からの使いのカラス天狗だった。


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