中学バスケ会にその名を轟かせた帝光中学男子バスケ部。

そのキセキの世代を率いていた主将ともなれば、当然スカウトの数も尋常ではなかった。
全中三連覇後は、全国の高校から監督達がひっきりなしに訪れていたと記憶している。

しかし、その殆どが門前払いを喰らって帰っていった。

赤司は初めから洛山へ行くと決めていたからである。

洛山から監督がスカウトに訪れた時、赤司は幾つかの条件を提示した上で洛山行きを確定した。
野球で言うなら、新人が球団を逆指名したようなものだ。
だが、そうするだけの価値が彼にはあった。


「洛山に行く」

だから七海にそう告げた時には、赤司は既に七海が洛山へ進学するための準備をも進めていたのだった。
自身はスポーツ特待生として、そして、七海もそれに準ずる待遇での推薦入学が出来るように。

ただ、洛山へ進学するということは、京都へ行くということだ。
当然、親元を離れての寮生活となる。
これにはさすがに難色を示すのではないかと思われた親は、「征十郎くんと一緒なら安心ね」とあっさり許可してくれたばかりか、むしろ率先して協力してくれた。
七海が打ち明けるより先に、赤司が既に両親に説明を済ませていて、彼の完璧なプレゼンテーションにより父も母もあっさり籠絡されてしまっていたのだ。

「ここまで来たらもう最後まで責任をとってもらわないと、という心境なんじゃないですか」と黒子が言っていたのを思い出す。

そんな馬鹿なと笑い飛ばせたらどんなに良かっただろう。
しかし、親の意図に気付かないほど鈍くも純粋でもない。


“七海をよろしくね”

幼い頃から繰り返されてきた言葉。
少なくとも母は最初からそのつもりでいたのだ。

繋いだ手を引かれて、ずっと彼の半歩後ろを歩いてきた。
これから先もきっとそれは変わらない。

「お前は何も心配する必要はない。今まで通り僕についてくればいい」

彼がはっきりそう言ってくれたから。


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