洛山で生活するにあたり、赤司と七海は京都にある別宅に住むことになっていた。
七海は寮に入るつもりでいたのだが、例によって既に赤司に決められていたのである。

七海は与えられた部屋の豪華さに気後れしつつ、荷解きをしていた。
ベッドや学習机などの家具はこちらで用意してくれていたので、身の回りの物だけを送って貰えば特に不自由のない生活が送れるようになっていた。

銭湯や旅館の大浴場を彷彿とさせる造りの浴室の他に、シャワー室もある。
スポーツ特待生を多く抱える強豪校に通う赤司には最適な環境に思えた。

七海が部屋から出てリビングに行くと、そこには既に赤司の姿があった。

彼はソファに座って本を読んでいた。
優雅に組んだ長い脚の上に本を乗せ、白い指先がページを捲る。
そんな何という事のない仕草がとても気品があり目を惹き付ける。

「おいで、七海」

赤司は本から目を上げると七海を呼んだ。

「入部テストは一般入学の生徒の到着後になるから、今日は顔合わせだけだ。緊張しなくていい」

「でもそれ一番緊張するよね」

どんなやつが来るのかと待ち構えている先輩達の所へ、たった二人きりで乗り込んで行くのだ。

赤司と監督が今後の活動についてかなり細かい所まで話し合っていたのを知っている。
だから揉め事などはなくスムーズに入部出来るとは思うが、何か洗礼的なものがあるのではと七海は緊張していた。

「堂々としていれば問題ないさ。ただ、僕と違ってお前は質問責めにあうだろうね。話好きな先輩がいるということだから」

「ああ…うん、それくらいなら」

何かやれと言われるよりは気が楽だ。
どうせ聞かれる内容は「赤司征十郎について」と「赤司とはどんな関係なのか」といったところだろうから。

洛山には女子マネージャーはいないと聞いている。
多くの強豪校がそうであるように、スタメンと控え以外の部員が雑用などの仕事を持ち回りで担当しているからだ。

「マネージャーとしての仕事自体は帝光の時と変わらない。帝光の頃よりも僕専任という意味合いは強くなってくるけれど、それは試合の時だけだ。わかるね?」

「うん」

「じゃあ、行こうか」

赤司が立ち上がる。
七海も彼の半歩後ろをついていった。

帝光のように複数ある体育館の一つからは、既にボールの音やスキール音が聞こえてきていた。
部員達が練習しているのだ。

赤司が入って行くと、それらの音が止まって、一斉に周囲の視線が彼に集まった。


「洛山へようこそ、赤司征十郎くん」


コーチの一人がそう声をかけてくる。
七海の後ろで体育館の扉が閉じられた。


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