黒子の“特性を生かす方法”を試すためのテストは、コーチや主将立ち会いのもと、三軍と二軍との試合形式で行われた。
赤司に「期待以上」と評価を受けたそれを、非常に残念な事に七海はタイミング悪く仕事で別の場所にいて目にすることは適わなかった。

それはまあ仕方ない。

ようやく黒子の努力が実ったのだ。
彼はテストでの功績が認められて一軍に昇格したのである。

黒子を呼びに行って一軍の体育館に案内する役目は桃井が担当した。
出来れば七海が連れていってあげたかったが、それもまあ仕方ない。

こうして黒子テツヤは晴れて一軍の仲間入りを果たしたのだった。


「あの黒子って子、一軍に来て最初の練習でいきなり吐いちゃって、後始末とか大変だったんだから!」

「ああ、やっぱり吐いちゃったんだ。久しぶりだなぁ。暫く大丈夫だったのにね」

「ちょっと!七海ちゃんはなんで当たり前みたいに受け止めてるの!?」

「だって、私が最初に黒子くんに会った時も吐いてたし」

「…ほんと、よく一軍になれたよね、あの子」

粉末状のスポーツドリンクの素を大型ジャグに入れ、かき混ぜて水に溶かしながらの会話だ。
ここに、このドリンクを飲む事になる部員達がいたら、うおええっとなっていたかもしれない。

「私、暫く二軍担当だから、黒子くんのことよろしくね。ある程度自分で管理出来るけど、無理しちゃうとまた吐いちゃうかもしれないし、体調とか気をつけて見ててあげて」

「七海ちゃん…もしかして、黒子くんのこと好きなの?」

「好きは好きだけど、友達としてだよ。何か放っておけないんだよね」

「あー、それはなんかわかるかも」

一軍用のボトルにドリンクを注ぎながら、桃井はうんうんと頷いた。
たちまちカゴの中は満杯のドリンクボトルで埋め尽くされる。
七海は冷蔵庫で冷やしておいたタオルと蜂蜜漬けのレモンのケースを出して桃井に渡した。

「これ征くんに渡して貰っていい?」

「うん、任せて!」

桃井はこころよく引き受けてくれた。
複数の男子がそこに顔を埋めてみたいと妄想しているに違いない豊かな胸を張って、任せなさいと笑顔で請け負う。

「やっぱり七海ちゃんは赤司くんが大好きなんだもんね!あんな素敵な幼なじみがいて浮気なんてするわけないか」

「あはは…」

そういう桃井も、男女問わず人気がある青峰の幼なじみなのだが、なんで大ちゃんが人気があるのかわからない!と公言しているだけあって、同じ幼なじみでも自分達と七海達は全然違うと思っているらしかった。



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