最悪の事態は、秋季昇格テストの翌日に訪れた。

実は昇格テスト当日も七海は心配になって第4体育館に行ってみたのだが、そこにはいつもいるはずの黒子の姿はなく、明かりもついていなかった。
その事が七海の不安を加速させた。

そして、その翌日。

今度は明かりがついていた第4体育館には、いつも黒子と一緒に練習しているという青峰が先に来ていた。
20時を過ぎて40分程経ったぐらいの時間になってようやく現れた黒子は制服を着たままで、

「…バスケ部をやめようと思います」

と切り出したのだ。
聞けば、今回も昇格テストに落ちたばかりか、三軍のコーチから「お前にウチの部は無理だ」と直々に退部を勧められたらしい。
ただ使えないから辞めろと言われたわけではない。
今まで一番黒子の頑張りを見守って来たコーチから「これ以上は無理だ」と言われたのだ。
命令ではなく、あくまでも本人の意思に任せると言われたそうだが、黒子の心をへし折るには充分過ぎる出来事だった。

「僕はとてもチームの役に立てそうにありません」

悄然と肩を落として告げた黒子に、青峰はチームに必要ない選手はいないと言って励ました。
頑張る黒子の姿を尊敬していた、と。

「諦めなければ必ずできるとは言わねぇ。けど、諦めたら何も残んねぇ」

それでも言葉が出ずに俯いたままの黒子に、七海も何か言わなければと必死に考えていた時、聞き慣れた声がその場に響いた。

「青峰」

呼ばれた青峰が、そしてその声に反応した七海が、体育館の入口へと顔を向ける。

そこには、紫原と緑間を引き連れた赤司が立っていた。

「七海まで」と赤司が七海と青峰を見比べる。

「最近見ないと思っていたら、こんなところにいたのか」

「征くん…」

「あー、向こうの体育館は人が多くて」

「まあ、何処で練習しても構わないが…」

赤司の目が、七海の傍らに佇む黒子へと向けられる。

「彼は?」

「ああ…いつも一緒に練習してんだ」

紫原は記憶にないようで、「こんな人いたっけ?」などと言っている。
いかにも弱そうな黒子に興味がないのだろう。

「七海、彼が前に言っていた三軍の?」

「…うん」

「そうか」

「ねーもう行こーよー」

紫原は欠伸をしながら赤司に行こうと促した。
だが、赤司の眼差しは黒子を捉えたままだ。

「いや…彼に少し興味がある。面白いな…始めて見るタイプだ」

赤司の意外な言葉に、彼の隣の緑間は困惑している様子だった。

「もしかしたら俺達とは全く異質の才能を秘めているかもしれない」

その瞬間、七海の脳裏には月刊バスケットボールマガジンの取材を受けた時に赤司が言っていた言葉が蘇った。
今の帝光に足りない“ナニか”。
不足している特殊な才能を持つ人材。

「悪いが七海以外全員先に帰っててくれないか?彼と少し話がしたい」


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