紫原は赤司の言葉に素直に従ってすぐに帰って行った。
彼の場合、黒子に興味がないからさっさと帰りたかったからというのもあるだろう。
青峰は黒子が気がかりなようだったが、七海に「征くんに任せよう」と言われて、渋々といった風に帰って行った。

残ったのは七海と緑間だけだ。

目を合わせた二人は、示しあわせたように体育館の入口脇に身を隠し、中から聞こえてくる話し声に耳をすませた。

どうやら赤司は黒子の「カゲが薄い」という特性を長所だと捉えているようだった。
そして、それを生かすべきだと黒子を諭していた。
その方法は教えられるのではなく、自分自身で試行錯誤して見つけるべきだ、とも。

赤司の声が近づいてくる。
もうすぐそこまで彼は来ていた。
話は終わりという事だ。

「答えが出ても、その実用性はおそらく従来のテスト方式でははかれないだろう。出たら、俺の所においで。コーチと主将に推薦して違う方式でテストしよう」

赤司が体育館から出て来た。
立ち聞きしていた二人を咎める風でもなく、聞いていたのか、と冷静に呟いて、そのまま歩き出す。

歩きながら黒子について話す緑間と赤司の会話を、七海は彼らの少し後ろをついて歩きながら聞くともなしに聞いていた。

赤司は黒子に、自分の長所を生かす方法を自分で探せと言った。
七海の頭はその事でいっぱいだったのだ。

はたしてそう簡単に見つかるものだろうか?

黒子のシュートスキルは絶望的に上達をみないままだ。
そうなると、特性を生かす方法とやらは、アシストとして活躍出来る形で探すことになるだろう。
パス、アシストと言ってすぐに思い浮かぶのは赤司のようなPG(ポイントガード)の役割だ。
でも赤司は自分の代わりが欲しいわけではないはずだし、何より、黒子が赤司を超えるPGになれそうかと言うと、とてもそうは思えない。

カゲが薄い、ということは、つまり、人に気付かれにくいという事だ。
それをコートの中で生かす……。

「──あっ!」

「七海?どうしたんだ?」

「あ…ううん、何でもない」

七海は首を振って答えた。

「ならばいいが…心配な事があればすぐに言うんだよ。お前は思っていた以上に隠し事が上手いようだから」

薄く笑んで赤司が言う。
チクリと釘を刺されてしまった。
もちろん、黒子の練習を見守っていた事について言われているのだ。
怒られるより怖い。

赤司はすぐ緑間との会話に戻ったので七海はほっとした。

けれども、さっき確かに頭に浮かんだはずの考えは綺麗さっぱり消えていて、どうやっても思い出せなかった。



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