部活が休みの日。
今年の夏は何処にも連れて行ってあげられなかったからと、七海は赤司に連れ出されていた。
目的地は最近リニューアルされた複合型ショッピングモールだ。
映画館や水族館などの施設もあり、その気になれば一日中楽しめそうな場所である。

確かに一度行ってみたいと口に出した事はあるが、それは皆と一緒にお昼ご飯を食べていた時に何気なく口にした言葉だったので、まさか赤司が覚えているとは思わなかった。
そして実行してしまうとは思わなかった。
だが、それが赤司征十郎なのだ。

「せっかくのお休みなのに良いの?」

「せっかくの休みだからこそ、だよ。休日ぐらいリラックスして過ごしたい」

普通なら自宅でのんびり身心を休めるのが一番なのだが、彼にとって家は心休まる場所ではない。
七海もその事を知っていたので、それ以上は言わなかった。

「征くんはもう、うちに来てごろごろすればいいと思うの。この前買ったラグ気持ちいいよ。私が一緒にお昼寝してあげる」

「それはお前が昼寝したいだけじゃないのか?」

「まあそうとも言うけど」

「昼寝には今度付き合うから、今日はしっかり起きていてくれよ。映画の最中に寝たらお仕置きだ」

「えー!」

赤司が笑った。
七海の手を握って、プロムナードを映画館に向かって歩いていく。

確かに今日の彼はリラックスしているようだ。
その肩にのしかかる重責を七海はどうしてあげる事も出来ないけど、少なくとも、部活も家も関係ない場所で彼を笑わせてあげることぐらいは出来る。

七海は自分より少し大きい赤司の手をしっかり握り返した。
それに反応して赤司が指を絡めて更に握り返す。

「人が多いね」

「夏休みだからな。仕方ないさ」

夏休みももう最後という事で、駆け込みレジャーに来ているのか、かなり人が多い。
手を繋いでいるからいいが、そうでなければはぐれて迷子になってしまいそうだ。


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